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木材を拾い終わると、男の子に目的地を教えてもらい、二人で一緒に歩いた。いくら歳が離れていても相手は男だ。隣を歩く彼は私よりも十センチほど高く、顔を見る時、少し見上げる形になった。私の視線に気付いたのは男の子と目が合った。男の子は少し目を見開き、すぐに顔を逸らした。年相応の反応だ。可愛らしい。

「君、名前は?」
「ジャン・キルシュタインです」
「そう…。所属兵科は決めたのか?」

そう言って、ジャンの顔を見た。彼は眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めていた。このタイミングでこの話題は流石にまずかったか。上位十名以内に入らなければ憲兵団には入れず、調査兵団か駐屯兵団の二択となる。調査兵団に入るのは自殺行為のようなものだ。だが、駐屯兵団に入っても今回のトロスト区のようなことが起これば、死亡する確率は高い。どちらにせよ、憲兵団に入らない限り、巨人に食い殺される未来が待っていることになる。けど、どう足掻いても数日後に勧誘式が行われる事実に変わりはない。残酷な現実だ。

「すまない。話題を変えよう」
「いえ、大丈夫です。………俺は…調査兵団に入ります」

調査兵団という単語を聞いて思わず足を止めてしまった。ジャンも少し歩いたところで立ち止まり、私の様子をうかがっている。まさか調査兵団に入るとは思ってもいなかった。トロスト区の襲撃を受け、調査兵団に入ると誓うのにはかなりの勇気が必要だ。…勇気だけじゃない。人類に心臓を捧げる覚悟も必要だ。

私が調査兵団の人間と分かっているから、そう言ったのであって本当は違うかもしれない。けど、そんな気はしない。今思えば、あの時の表情は現実から逃げたいという気持ちだけでなく、怖いけど覚悟を決めろという気持ちも含まれていたんだと思う。

「あ、ごめんね」

そう言い、再び足を動かした。額を汗が流れるのが分かる。何を動揺しているんだ。ただでさえ人数不足の調査兵団に入団希望をしてくれる新兵がいるなんて喜ばしいことだ。それにまだ入ると確定したわけではない。おそらく、勧誘式でエルヴィンは偽りなくこの五年間の調査兵団のあり方、今後の調査兵団の活動のことを話すだろう。それに絶望して入団を辞めるかもしれない。

「少し、驚いたよ。調査兵団に入る新兵は少ないからな…」
「別に俺は好きで調査兵団に入ろうと思ってるわけじゃないです。けど…もう、決めたんで」

言葉だけを聞けばかっこよくみえる。けど、彼の指先には力が入っており、その手は小さく震えていた。


「( 怖い怖い怖い怖い。嫌だ、嫌だよ。死にたくないよ )」

「汚ぇ面しやがって。おい、帰るぞ」

「( 私は、強い。…強いんだ )」



ああ、この時期になればいつもこうだ。もう昔の私とは違う。今の私は"強いんだ"。だから、何も不安がることはない。切り替えるんだ。

「そういえば…先輩の名前、教えてもらえませんか?」
「私の名前か…。そうだな。…君が調査兵団に入団してからにしようか」
「え?」

ジャンが驚いている横で私は少し足の速度を速めた。ジャンはそれに慌ててついてくる。目的地まであと少しだ。