03


ついにエルヴィンたちにエレン・イェーガーとの接触許可が下りた。エルヴィンとリヴァイは彼の元へ向かい、私とハンジとミケの三人は部屋に残された。ハンジはこの前捕まえた巨人…確か名前はソニーとビーンって言ってたはず。その二人の実験をしてくると嬉しそうにスキップをしながら部屋を出て行った。相変わらずだ。ミケもナナバたちと次の壁外調査の話をすると言って、部屋を出て行った。残された私は部屋の片隅に置かれているソファに腰をかけた。

次の壁外調査は新兵の勧誘式から一か月後だ。もちろん、それには新兵も加わるらしい。詳しいことは後日説明するとエルヴィンは言っていた。私の初の壁外調査。今となっては懐かしい話だ。まさか分隊長にまでなるとは思ってもいなかった。

今年は何人の訓練兵が調査兵団に入団するのか。例年より少ない気がする。なんせトロスト区で巨人の恐怖を知ってしまったのだから。訓練兵の段階で実践を経験するなんて今までなかった。今年は…今まで起きなかった何かが起きそうな気がする。

昨日のうちに溜まっていた報告書は仕上げ、今のところは手が空いている状態だ。レーナたちの様子でも見てこよう。そう思い、トロスト区へと足を向けた。

***

分かってはいたが、やはりトロスト区の状態は悲惨なものだった。まだ微かに残っている腐敗臭。建物や地面にこびりついた血。損傷した建物に地面に落ちている破片。そして、何よりトロスト区を修復している兵たちの絶望的な顔がその悲惨さを一番物語っていた。友人や恋人が巨人に殺され、その心を癒せていない者もいるだろう。一日でもトロスト区を修復するために兵たちは休むことを許されていなかった。

レーナたちはどこにいるのだろうか。駐屯兵にでも聞けば居場所が分かるかもしれない。駐屯兵を探し、辺りを歩いた。大方死体処理は終わり、今は建物の修復に取り掛かっている。これが終わるのにあと何日かかるだろうか。

「わっ」

よそ見をしながら歩いていると、誰かとぶつかった。勢いがあったわけではないが、正面からぶつかったため相手が持っていたであろう木材が派手な音を立てて地面に散らばった。相手の顔を見る。男の子だった。三白眼で悪く言えば悪人面。後ろ髪はリヴァイのように刈り上げになっているが、リヴァイとは対照的に堅そうな髪質。そして、二本の剣が交えた紋章。今期の訓練兵だ。彼はぶつかった衝撃で地面に尻もちをついたらしく、そこを擦っていた。

「痛ぇ…」
「すまない。怪我はないか?」
「は、はい。大丈夫です…あっ!!す、すみません。前がちゃんと見れてなくて…」

訓練兵の男の子は私の顔…というより紋章か。それを見た途端、慌て出した。お辞儀をし、すぐに辺りに散らばっている木材を拾い始めた。そりゃあ、こんな量を持っていたら前も見えないはずだ。

木材を拾っている男の子と一緒に私も木材を拾い始めた。彼は目を丸くして私を見ている。どうしたの?そう問うと、彼はハッとした顔をし、口を開いた。

「このくらい俺一人で大丈夫なので…」
「元々は私がよそ見しながら歩いていたのが悪い。それにこんな量持って、また誰かとぶつかっても困るだろう?先輩の言うことを聞くことも兵士としての勤めだ」
「…あ、ありがとうございます…」

男の子は少し納得のいっていない顔をしていたが、黙々と木材を拾い始めた。なんだか初々しいものを感じる。私にもこんな時があったっけ。そう懐かしみながら、残りの木材を拾った。