04


「クラウス…だ、大丈夫か…?」
「………ああ…」

その日の夕食は昨日の朝食のメンバーと一緒だった。俺の横にアニ。そして、俺の前にライナーとベルトルトだ。

スプーンを動かしてスープを飲もうとするも、腕を動かすだけで体の節々が悲鳴を上げているようだった。また、対人格闘でアニに散々負かされた後の兵站行進で更に体力を奪われ、食欲は無に等しかった。何も口にせずサシャに渡そうか。…いや、食べることも訓練の一つのようなものだ。開拓地じゃ毎日三食も十分に食べられなかった。この状態はありがたいことなんだ。だから、残さず食べるんだ。

「アニ…もう少し手加減してやれよ」

そうライナーが言うと、アニは一瞬俺の方を見たが、すぐ、皿に乗せられているパンに視線を移した。あの時した会話は覚えている。対人格闘術を教えるのは構わないけど、手加減はしないとのことだ。俺は拒否しなかった。というかアニが拒否する暇を与えてくれなかったんだけど。だから、アニは間違ったことをしていない。俺が弱いのが原因だ。

「手加減しなくていいんだ。手加減したら、訓練にならねぇだろ?」
「けどな…お前のその怪我を見て誰が納得するんだよ」

今の俺は頭に包帯を巻き、顔や手には絆創膏を貼っている。対人格闘でこんな怪我をするなんてよっぽどだ。正直、捻挫や骨折をしなかったのが不思議なくらいだ。………ああ、そうか。

「アニって、本当に強いんだな」
「…急に何」

突然、話題を振ったからなのか、俺の方を見たアニは少し戸惑った顔をしていた。

「手加減しないなんて言って、本当は手加減してくれてたんだろ?」

そう言うと、ライナーはえっ!?と目を丸くして驚いていた。何だよ、ライナー。手加減されてそれなのかって言いたいのかよ。けど、反論できねぇ…。

「……アンタが訓練を受けられない程の怪我をして責められても困るからね」
「それでも、アニは優しいよ」

そう言った途端、アニの動きがピタリと止まった。え。どうしたのかと思わずライナーたちを見ると、ライナーは固まっていた。ベルトルトはいつも通りでよく分からなかったが、ただ、じっとアニを見ていた。

「え?何?俺、なんか悪いこと言った?」

三人の顔を見るが、誰も返事をしない。何かまずいことを言ったか。内心慌てていると、アニは黙って席を立った。皿の上に残ったパンを掴んだと思いきや、サシャのところに行き、それを渡し、食堂から出て行った。食堂は相変わらず賑やかだが、サシャの喜びの声がよく聞こえた。そして、俺たちの周りは変わらず静かだ。

「クラウス、お前なぁ…優しいって言ったらクリスタみたいな奴のことを言うんだよ」
「確かにクリスタも優しいけどさぁ…」

そう言い、アニが出て行った食堂の出口を見つめる。あの時、アニの顔を一度も見れなかった。どんな顔をしていたのだろう。照れていた?それは流石にないか。怒っていた?だったら、謝るべき…なのかな。優しいって、悪い言葉じゃないと思うんだけどな。けど、もしかしたら、アニには悪い言葉なのかもしれないし………。ああ、くそ。やっぱ俺、アニのこと、何も分かってないよなぁ…。

そう思いながら口に含んだパンは口の水分を奪い、味なんて感じやしなかった。