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周囲から聞こえる絶叫。パキパキと何かが砕かれる音。目の前で何人もの訓練兵が涙を流し、必死に死ぬことを拒んでいた。けど、奴等はそれを許さない。どんなに拒んでも、最後には手は動かなくなり、口は開かなくなる。…それ以前に言葉を発する口が存在しなくなる奴だっている。

ああ…一人、また一人と死んでいく。俺と一緒に取っ組み合いしたあいつも、俺が怪我をした時に心配してくれたあの子も。皆、奴等の胃の中へと消えていく。

今、目の前で必死に俺に何かを訴えかけている彼女は誰だ?………知らないわけがない。俺の大好きな、守りたいって思っている、あの子だ。彼女の絶叫が響く。茫然とその絶叫を聞く中、俺の体を奴等は掴んだ。視界に映るのは奴等の口の中。その先は死への道、一直線だ。刃をその手に突き刺した。けど、奴等は微動だにしない。何をしても奴等が手を離すことはなかった。

こんなの、五年前と一緒だ。大切な人を守れず、自分の身すら自分で守ることが出来ない。俺はあれから何をやったんだ?訓練した。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために、必死に訓練に励んだ。その結果がこれだ。ああ、俺は五年も経って、何も変わってない。俺は…変われないのか?どんなに頑張っても…ずっと…。

―ああ、俺は………弱いままだ。

***

「……………最悪な夢だ…」

目覚めての第一声がこれだ。本当に最悪な夢だ。巨人に殺される夢なんて縁起が悪すぎる。それに…アニまで殺されるなんて…本当に最悪だ。この前、対人格闘術でアニに圧倒されて自分の弱さを痛感したところからのこれだ。…けど、事実だ。俺は弱い。他の訓練だって、アニたちみたいに優れているわけではなく、並…もしくは並より下、ぐらいだと思う。

もっと強くなりたい。もう大切な人が目の前で殺されるのは御免だ。…俺には才能がない。だから、努力するしかない。誰よりも努力して、強くなってやる…!!

***

対人格闘の授業が始まり、皆はすぐに近くの奴とペアを組み始めた。俺は人混みの中からアニを探し出し、声をかけた。

「ア、アニ!!俺に格闘術を教えてくれ!!」
「…は?」

そう言った途端、アニは固まった。そりゃそうだ。急に来て何を言い出すかと思えば格闘術を教えてくれなんて言われたらそうなる。アニの格闘術は昔からの練習の積み重ねだろう。何もしていなかった俺がアニを超えるだなんて無理な話だ。けど、近付くことなら、俺にも出来る。まずはここからだ。

「………構わないよ」
「ホ、ホントか!?」
「ただし………」

断られる覚悟をしていたから、アニが返事をしてくれた時は素直に嬉しかった。けど、アニが腕を構えたのを見て選択を誤ってしまった気がした。ああ、アニから放たれるオーラ的なのがヤバい。俺…生きて帰れるかな。

「手は抜かないからね」

アニが地面を蹴り、俺に向かってきた。今日も地面にお世話になったのは、その数秒後だった。