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―アニ・レオンハート―
クラウスと出かけてから数日経ったある日。訓練兵たちの間である噂が流れていた。
「あのクラウスが調査兵団に入るって言い出したらしいぜ」 「けど、あいつ、立体起動の成績良かったか?座学が良かったのは覚えてるけど…」 「だったら、すぐ巨人に食われるじゃねぇかよ。頭良いんだからさ、技術班にでも入ればいいのにな」
いろんな声が聞こえる。誰もがクラウスの調査兵団志願に驚いていた。勿論、私も驚いているさ。クラウスは成績がそんなにいい方ではない。良いのは座学だけ。私と訓練しているからか、対人格闘は前に比べたら少し腕が上がっている。けど、それでは壁外では生き残れない。基本である立体起動が出来なければ何もならない。だから、調査兵団はまずありえないと思っていた。それなのに、これが現実だ。
今日は夕飯をミーナと一緒に食べている。本当はクラウスに誘われたが、あまり気が乗らず、断ってしまった。クラウスはというと、エレンたちと話していた。何故かそちらにばかり視線がいってしまい、皿の上に乗った食材は一向に減る気配を見せない。それに心配したのか、ミーナが顔を覗き込んできた。
「アニ、今日、様子変よ?」 「…そんなことないよ」 「…クラウスが調査兵団に行くの、気になるの?」
スプーンを持つ右手が止まる。そして、ゆっくりとミーナと目を合わせた。ミーナは心配そうな顔でこちらの様子を覗っている。
「…私…あいつのこと、気にしてるのかな」 「え?」 「私には…分からないよ…」
視界の端でクラウスはエレンたちと騒いでいる。私には分からないよ。何でクラウスが調査兵団を選んだのか。何でクラウスにばかり目が行くのか。それなのに、何でクラウスを避けてしまったのか。………何で…こんなにもクラウスのことを気にしているのか。………私には…分からないよ…。
「ごめん、ミーナ。先に部屋に戻るよ。残ったやつはサシャにでもあげといて」 「え!?あ、ちょっと、アニ…!!」
ミーナに呼び止められるも、振り向かずに賑やかな食堂を抜け出す。こんな風に食堂を抜け出すのは前にもあった。クラウスが私のことを優しいと言ったときだ。…ああ、ほら…またクラウスだ。あいつは…どこまで私のことを蝕めば気が済むんだ。………もう、止めて。これ以上…苦しい想いは、したくないんだ…。
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