08


俺たち訓練兵の休日は週に二日与えられている。体を休めることも訓練の一つらしい。訓練兵になったばかりはこの休日が有難くて、大体の奴らが兵舎で過ごしていた。けど、最近は体も鍛えられ、街へ出る者が多くなった。俺も一応、その一人だ。今日もいつも通りジャンたちに声をかけられたが、用事があると言って断った。まさか、誰もアニと出かけるなんて思ってもいないだろうな。

ズボンのポケットに銀貨を何枚か入れ、アニとの待ち合わせ場所に向かう。なんだか不思議な気分だった。俺とアニが皆には内緒でこんな風に待ち合わせして出掛けるっていうのが。

「アニ!!」

名前を呼ぶとアニはこちらに振り返った。少し待ちくたびれたような顔をしている気がした。余裕を持って部屋を出たから遅刻はしていないと思うけど…。

「ごめん、待たせちゃったよな」
「…私が早く来ただけだよ。ほら、行くよ」

そう言い、アニは先に歩き出す。慌ててアニの跡を追い、隣に並んで歩く。二人で歩くなんて、いつも通りのことなのに何故か凄く緊張した。

***

街は休日なのもあり、人で賑わっていた。道を歩く人たちの声や店の商品が安いと勧誘する人たちの声が街に響いていた。子供、大人、老人…数えきれないぐらいの人が道を歩いていた。ただでさえ街は大きいのに、これではぐれたりなんかしたら見つけるのは至難の業だ。はぐれないように注意しておかないと。

「(あっ…)」

歩いている中、ある店に目が留まった。女性物のアクセサリー店だ。店から少し離れたところでアニに少し待っててくれと言うと、すぐにその店へと足を向けた。

店頭にはいくつもの髪留めやネックレスなどのアクセサリーが並べられていた。周りは女性ばかりで少し気恥ずかしい。出来るだけ早くこの場を立ち去ろう。アクセサリー一つ一つに目を向ける中、ある髪留めに目が留まった。花の飾りが付いている髪留めだ。それが何の花かは分からなかった。けど、アニはその髪留めをつけている姿はすぐに想像出来た。アニに凄く似合っている気がする。

「あの、これ、ください!!」

すぐにその髪留めを手に取り、売り子のおばさんに渡した。おばさんは笑顔でそれを受け取ると小さな紙袋で包んだ後、髪留めが入った袋を俺に手渡した。俺はズボンのポケットに手を突っ込み、銀貨を取り出し、おばさんの手に握らせた。ありがとう。そうおばさんの声が聞こえ、軽く会釈してアニの元へ走った。

「ごめん、おまたせ!!」

髪留めが入った袋を銀貨が入っているポケットとは反対側に入れ、アニと合流した。今はまだ渡さない。もう少し、卒業が近付いてから渡す。それでアニを驚かせるんだ。…まぁ、アニが驚いてくれるかは分からないけど…。…喜んでくれたらいいな。

「…ニヤニヤして気持ち悪いよ」
「え、俺、そんな顔してた!?」
「そのくらい自分で気付きな。次はどこに行くんだい?」

そう聞かれ、少し焦って辺りを見渡した。すると、人だかりが出来ているところが視界に入った。何があるか分からないけど、とりあえず行ってみよう。もしかしたら、面白いものがあるかもしれない。

「あっ!!あそこ、行こう!!」

そこを指差し、アニの手を握って走り出した。