07


昼ご飯を食べ終わった後、ミーナに晩の皿洗いを代わってくれと頼まれた。教官に頼まれたことがあるらしい。別に皿洗いは嫌いじゃないし断る理由もなかったから了承した。普段、皿洗いはペアで行われている。確か、ミーナのペアは………アニだ。

晩ご飯を食べ終えると、自分の食器を調理場へ運ぶ。食べ終わったのは最後の方だったから、ほとんどの訓練兵の食器が積み重なっている。いつ見ても凄い数だな。今はもう慣れたもんだけど、初めて見た時はやる気が一気に無くなったっけな。

調理場を見渡すが、アニの姿は見当たらなかった。まだ食べてるのかな。今日はエレンとジャンの言い争いに付き合わされてたせいで一緒に食べられなかったから分からない。アニはそんなに食べるのは遅くないのに、珍しい。待っててもしょうがないし、先に始めるか。桶に水を溜め、そこに食器をつける。そして、濡れた食器を手に取り、スポンジで汚れを磨いていく。

「あ…」

小さい声が耳に届く。声が聞こえた方を見ると、スポンジを片手に持ったアニが立っていた。何でアンタがいるの?ミーナから交代した話を聞いていないのか、アニは少し不機嫌そうな顔をしていた。そりゃそうだ。仲のいい子がいると思って来たら俺なんだから。俺はアニと仲良くしたいって思ってるんだけどなぁ。

「ミーナに用事があるから代わってくれって頼まれたんだよ」
「へぇ」

アニはそう短い返事をすると、俺の横に立って、一緒に皿を洗い始めた。皿を磨く音と時々水を流すおとだけが調理場に響く。

そういえば、アニとこんな風に二人きりになったのは初めてな気がする。二人で話すことは多いけど、周りに誰もいなかったことはない。なんだか無音で落ち着かない。いつも周りの声に助けられていたみたいだ。

別にアニと話す内容がないわけではない。アニって、いつから格闘術やってんだ?とか今日の訓練どうだった?とか。って、訓練の話だけだし全部質問だ。それは流石にまずい。俺の話をしてみるとか。この前、テストでいい点取ったんだ…駄目だ。これじゃあ、ただの自慢話だ。………何だろう。普段なら話題が出てくるのに、良い話題が全く出てこない。

「アニ…」
「…何?」

何故か焦って名前を呼んでしまう。どうしよう。頭の中が真っ白だ。呼んだからには、何か言わなくちゃ。何か、何か、何か……………。

「こ、今度の休みの日…い、一緒にどこか行かないか?」
「…は?」

迷った挙句、口から出たのは自分でも予想外のセリフだった。こんなこと言うつもりじゃなった。けど、アニとどこかに出掛けられたらいいなって思ってたのは事実だ。いつも訓練付き合ってくれてるお礼でどこかに連れて行けたらなって。けど、このタイミングで言うつもりじゃなかった。なんだか恥ずかしくなってきて顔が熱くなるのが分かる。

「……………いいよ」
「え!?」

少し長い沈黙を得て、アニは言葉を返した。驚いた。断れるものだとばかり思っていたから、いいよだなんて返事が返ってくるなんて思ってもいなかった。嬉しくてスポンジをぎゅっと握り締めた。すると、スポンジから水が飛んできて、俺の顔に飛び散った。アニを見ると、アニはそんな俺を呆れたように見ていたが、その口元は少し緩んでいるように感じた。

「いつも怪我させてるお詫びだから」

アニの声は小さかったけど、その言葉はしっかりと俺の耳まで届いた。…明日から、もっと訓練頑張ろ。