マイヒーロー
「ナマエさん。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」 「聞きたいこと?何?」
就寝前のちょっとした自由時間。私はエルド、グンタ、エレンと共にお茶を飲んで過ごしていた。この場にいないオルオとペトラは用事で少し席を外しており、リヴァイ兵長もエルヴィン団長に呼ばれ、この場にはいなかった。
エレンの聞きたいこととはなんだろう。訓練のこと?壁外調査のこと?けど、それなら、私個人に質問しなくてもいいことだ。何かプライベートのことだろうか。エルドとグンタがいるからあまり正直には答えられないけど、出来るだけ答えるようにはしよう。
「オルオさんのこと好きって、本当ですか!?」 「ブフッ!!!!」
突然のエレンの質問に茫然としてしまった。予想外に直球の質問でマグカップを持ったままの手は動かない。視線はエレンだけを捕らえていた。…もちろん、今、お茶を噴き出したのは私ではない。エレンの横に座っているエルドだ。テーブルがお茶で濡れている。今ここにリヴァイ兵長がいたら、怒られていたに決まっている。
「エレン…誰からその話、聞いたの?」 「えっと…エルドさんとグンタさんから…」 「エ、エレン!!」
自分たちの名前が出た途端、エルドはエレンを怒鳴りつけ、グンタは少し肩を震わせた。それに対し、エレンは何か変なこと言ったのかと不思議そうな顔をしていた。普通はここで名前を言わないだろうけど、天然のエレンは別だ。まぁ、皆がいる前であんなこと聞いていた時点でそうだけど。ここまでの天然は珍しいぐらいだ。
「エルドにグンタ…アンタたち…」 「故意じゃないんだ。エレンが班員のことを教えてくれっていうから、その勢いで…」
故意じゃないって…絶対、面白がって言ったとしか思えない。きっと主犯はエルドだ。グンタがそんなことを言い出すとは思えない。悔しいから、今度、エルドの恋人にエルドの秘密を言ってしまおう。それでお相子だ。
「…それで、どう…なんですか…?」 「………好きだよ、オルオのこと」 「案外正直なんだな」 「バレてるモンは隠してもしょうがないでしょ」
ふと、オルオの顔が浮かぶ。いつもリヴァイ兵長の物真似をしているけど、正直、どれも似ていない。自分の方が討伐数が上だからって人のことを馬鹿にしてきて、余計なことばかり言ってくる。正直、面倒くさい奴だ。肝心なところでいっつも舌を噛むし。…けど、面倒見が良くて、私がちょっとヘマをしたら、さりげなくフォローしてくれる。何度目かの壁外調査の時には私のことを守ってくれた。その姿は凄くかっこよくて、オルオは私の………
「ナマエ、なにニヤニヤしてんだよ」 「え!?し、してないよ!!」
グンタに声をかけられ、現実に引き戻された。ニヤついていたなんて、う、嘘だ。そりゃあ、かっこいいオルオのこと考えてたらちょっと頬が緩みそうだなぁとは感じたけど、必死に抑えてたよ。気のせい。きっとグンタの気のせいだ。
「どうせオルオのことでも考えてたんだろ?」 「だから、してないって!!」
駄目だ。このままじゃ二人のペースに飲まれてからかわれるだけだ。エレンには悪いけど、ここから逃げ出そう。適当に寝るでも言えば三人は納得しないしないけど、逃げられるはずだ。そう決心していると、キィィと音を立てて、ドアが開いた。まさかと思い、そのドアの方に目を向けるとオルオが立っていた。まさかの本人の登場に皆、顔を引きつらせていた。
「お前ら、まだ寝てなかったのか?」 「別にいいだろ。それより、ペトラはどうしたんだ?」 「あいつは疲れたから先に寝るらしいぞ。俺も先に寝るからな。お前らもとっととクソして寝ろよ」
オルオはそう言いながら、部屋を出て行ってしまった。ドアが完全に閉められると、私たちは肩の力を抜いた。
「うわぁ、やっぱりオルオさんの兵長の真似、似てねぇ…」 「エレン。お前は本当に直球だな…」
グンタが呆れながら言うが、エレンの意見には大賛成だ。兵長の真似なんてしなくても、オルオは強くてかっこいいのにね。やっぱりペトラに気があるからそうしてるのかなぁ。なんて、消極的なことを考えてしまう。
「…オルオもああ言ったことだし、私たちもそろそろ寝ようか」
そう言って席を立ち、さっさと部屋を出ようとする。そんな私をエレンが呼び止める。「何でオルオさんが好きなのかだけでも教えてくれませんか?」…最近の若い子は本当に好奇心旺盛だ。エレンはその代表だね。まぁ、寝る前にオルオに会えたことだし、正直に答えてあげようか。こんなに正直に話すの、今日だけだからね。
「………私の、ヒーローだから…かな」
20131117
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