小さなローソクが15本刺さった甘ったるいケーキは、彼のために用意したのに…。


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日付が変わってすぐに電話を掛けて、おめでとうございます。とありきたりな言葉を伝えて、30分だけ話した。とても幸福な時間。電話を切って、夢を見た。丸々1日、2人でゆったりと過ごすだけの夢。朝起きたら泣いてたもんだから、自分でもびっくりだ。

今日は4月20日。とても特別な日なのだけれど、世界はいつも通りの時を刻む。学校へ行って授業を受けて部活をして、帰ってくる頃には8時を過ぎていて。
せめて同じ学校に通っていたなら、例え学年が違ってももうすこし一緒に居られたはずなのに。

自室にこもって買ってきたばかりのケーキにローソクを刺す。
丸井さんのために買ってきたはずなのに、彼はここには居ない。今頃家で沢山のご馳走を前に目を輝かせているに違いない。チクリと胸が痛んだけれど、仕方ない。仕方ないんだ。だってあまりにも、遠すぎる。


フォークを突き刺して、真っ赤な苺をひとかじり。生クリームと一緒に口に入ってきたはずなのに、ただ酸味が広がっただけに終わった。後はどうしようか。自分で買ってきたはずなのに、甘いものはあまり好きじゃない。

苺の乗っていないケーキを写真に収め、丸井さんに向けてメッセージを送る。


「丸井さんが居ないと誰がこれを片付けるんですか」

可愛くないのは今に始まった事じゃなし、変に飾らない方が自分らしい。

数秒後、ピロリンと携帯が震えて丸井さんからのメッセージを受信する。


「食べに行くから待ってて」

……は?どうしよう、いよいよ彼が分からなくなった。待っててって、期待しても良いのだろうか。でも、今何時だ。ふと時計を視界に捉えて、日付が変わるまであと2時間に迫っている事に気付いた。あと2時間後、俺の特別な一日は主役不足のまま普通の日に成り下がる。

毎年の事だし、今年だけ特別何かを期待するだなんてそんな事、出来るわけがない。ない、のだけれど、

「…ケーキは?」

はっは、と短く息を吐きながら、彼は笑顔をたたえて俺を見ていた。見間違いか、と数回目をこすってみたが、やはり目の前には会いたくて会いたくて仕方なかった、いとしい人。


「なん、で…っ」
「お前が、泣いてる気がしたから。」

綺麗に笑った彼はあいてる左の親指で雫をすくってみせた。知らなかった、いつの間に。


「ほんと、泣き虫」

カラカラと楽しそうに笑って、「まぁそこが可愛いんだけど」と頭を撫でられる。どうしよう、ようやっと、実感した。大好きな彼と特別な一日を過ごしている。こんな些細な事が、とても嬉しい。幸せだ。


「…つーか苺は?」
「食べ、ちゃいました、」
「日吉が?」
「はい、酸っぱかったです…」

むっとむくれた顔で、にやりと笑って「俺にも食わせて」と言うもんだから、「もう全部食べちゃったから無いですよ」といじわる。


綺麗に笑ったかおが近づいて、唇が合わさるまでずっと見つめ合っていた。
気持ち悪いけれど、この数秒間だけは世界に二人きり。


一人にしないでよ
(あなたが居なけりゃ意味がないの)



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2011年度丸井生誕祝い企画
赤髪の妙技師が世界一さまに提出しました。

不完全燃焼ではありますが、私にとって1年で一番特別な日を大好きな丸日でお祝い!ずっとずっと大好きなの。そろそろねぇ気付いてくれたって良いんじゃない?

110420.