2024.11.20
※長編ヒロイン設定
最近、伝令神機の進化が著しい。前は皆、折りたたみ式のものを愛用していは筈なのに、気が付けば薄くて触れるだけで反応する画面を備えた最新型を持つ者が増えていた。
私は使いこなせない自信しか無くて未だに旧型を使っているが、流行りに敏感なトミちゃんは当たり前に変えていた。
「だから、今日迎えに来てよ」
伝令神機の画面に向かって喋りかける彼女を不思議に思いながら、その背後を通り過ぎようとした。したのだが、トミちゃんの手元にある機械の画面いっぱいに映る小田切君の姿に思わず足を止めた。
「どうなってるの…?」
覗く行為など如何なものかと思いながらも目が離せず、そして自然と漏れた声で二人の会話を中断させてしまったことに、ハッとして口を押さえた。
「邪魔してごめん…!」
「いいえ〜、あ、三席も変えたらどうですか?こうやって顔見て電話出来るし」
「いや私は…」
「どうもっす姐御!」
「お、小田切君…!どうも…」
あちらの撮っている映像とこちらの撮っている映像がそのまま交わされているのは分かったが、その仕組みなど分かる筈が無い。しかしこれなら直接会わなくても相手の声だけでは無く表情も分かる訳だ。
「あ!斑目副隊長ー!」
こちらから視線を変えた小田切君の声が発した人物の名に吃驚していると、彼は今居る場所から移動しているようだった。そして次の瞬間、画面いっぱいに映る一角さんの顔に目を見開いた。
「姐御と繋がってますよ!」
「あ?何だこりゃ」
「斑目副隊長〜、お疲れ様です〜。ほら三席もっと写ってください」
「えっ、」
トミちゃんに言われるがまま肩を寄せられて彼女の身体に自分の身体をくっ付けると、画面の端に孤立した小さな四角の中に自分の顔もちゃんと写っていた。
「副隊長!顔こわいっス!」
「そうですよ〜。もっと笑ってくださいよ〜」
小田切くんとトミちゃんからの言葉を聞いても尚、一角さんの表情は怪訝なままだった。それが何だか可笑しくて、つい笑ってしまう。
「面白いからスクショしとこ。これ後で三席に送りますね」
聞き慣れない単語に曖昧に返事をしながら、思わず私も新しいものに変えたい、なんて思ってしまった。
2024.11.11
ポッキーの日のお話 Part2
※長編ヒロイン設定
「一角さん、トミちゃんにポッキーっていうお菓子貰ったので食べませんか?」
今日を現世ではポッキーの日というらしい。この長細い菓子の名前がポッキーというらしく、一の字にちなんでいるようだ。そして彼女からの入れ知恵でポッキーゲームのことも聞いてしまった。
緊張しながら袋を開けて一本取り出し、意を決して端を咥えると、一角さんの方へ顔を向けた。
「…何してんだ」
死ぬ程恥ずかしくて咄嗟に顔を背け、現世にはポッキーゲームというものがあるらしくて、と苦し紛れに話しながら、そのまま虚しく一人で食べ始めた。
不意に引かれた腕に振り返ると、先の私のようにポッキーを咥える彼に今度は私が問い掛ける。
「何してるんですか…」
「食え」
え、と零してその目を見つめ返しても一角さんの表情は微動だにせず、きっと私が食べるまで彼は動かない。もう一度意を決して一角さんの咥えているポッキーの反対側を口に含み、食べ進めると必然的に近付く顔と顔。再び恥ずかさが込み上げ、思わず口から離してしまった。
「おい」
「すみません…やっぱり恥ずかしくて」
「今度は絶対ェ離すな。分かったか」
「えっ!またやるんですか!?」
当たり前だろ、と言うようにポッキーを咥える一角さんに私も気を取り直し、平然を保つように深呼吸してもう一度顔を近付けた。菓子一つ食べるのにこんな緊張するとは。
しかしやはり私は恥ずかしさに負け、瞬きを全くしない彼の視線から逃れるように口から離してしまった。
「やっぱり無理です…!恥ずかしい…!」
「じゃあ次はお前が咥えて待ってろ」
何でこんなやる気なんだこの人、と思いながらその言葉に従い、ポッキーを咥えたまま目を閉じて待った。しかし待てど暮らせど始まらないポッキーゲームにゆっくり目を開けると、ジッとこちらを見据える一角さんの姿。
「…何で食べてくれないんですか」
「なんつーか、そのツラ」
「え?」
「やらしいな」
しん、と静まり返る室内にて、軽蔑の視線を惜しみなく送ってやった。何考えてるんだ、と思うも、ポッキーを使って口付けまで持ち込もうとした自分も人のことを言えない気がした。
「もう普通に食べましょう」
「お前から仕掛けてきたクセに良く言うぜ」
「はいはいすみませんでした」
「まだ結構あるな。早く咥えろ」
「はっ倒しますよ」
2024.11.11
ポッキーの日のお話
「斑目三席!ポッキーゲームしましょ!」
「何だそりゃ」
「このポッキーを端と端から食べ合いっこして、先に口を離した方の負けです。二人共口を離さないで食べれたら最終的にはチューを…って、やだ恥ずかしい!乙女に何言わせるんですかもう!」
バシバシ、と肩を叩いても斑目三席の身体は微動だにしない。何言ってんだコイツ、と言いたげな彼に現世から入手したポッキーの袋の開封口を向けると斑目三席の長くて綺麗な指が一本を掴み取った。しかし掴んだ途端にポッキーは悲しいかな、あっさり折れてしまった。
「え、何してるんですか」
「折れたぞオイ」
「いや折れたんじゃなくて斑目三席が折ったんですよ」
折れたポッキーを二人で分け合って食べ、もう一度新しいものを掴んだ斑目三席の手にあるポッキーもまた呆気なく折れた。
「ふざけてます?」
「何でこんな細せェんだこいつは!」
「それがポッキーですもん。食べ物を粗末にしないで貰って良いですか」
「してねえだろが!」
「そもそも、持つ力が強すぎなんですよ」
「クソしゃらくせえ。こんなモン抜きですりゃ良いだろ」
「ポッキーゲームの意味!」
2024.10.28
気付いてしまったお話
「斑目三席の目尻って」
「あ?」
どうしよう、気付いてしまった。この人のトレードマークと言っても過言では無い、目尻のあか色。それが二つ合わさったとき形作るものを。
「両方合わさるとハートになりません!?」
「ハートって何だよ」
指でハートを作って見せてもこの表情。こんな呆れた顔をしながらも斑目三席はいつだって私の話をちゃんと聞いてくれる。そんなところも大好き。
「やだ斑目三席ったら…!遠回しに私に好きだって言ってるんですか!?」
「言ってねえよ」
「そのうち"ツキツキの舞"ならぬ"スキスキの舞"を踊るつもりですね!?」
「踊らねえよ」
「もう!そんな回りくどいことしなくても良いんですよ!」
「ヒトの話聞けよ」
「斑目三席って私のこと好きなんですね!私も好きですけど!きゃ!言っちゃった!」
「やっと気付いたか」
「え?」
「あ?」
「……え?」
私を見つめる斑目三席の瞳が冗談なんかでは無いと、気付いてしまった。
2024.10.12
真っ裸で斑目さんと鉢合わせになるお話
※長編設定
一角さんの帰りが遅くなるのを良いことにいつもより寛ぐ時間を延ばした結果、焦って風呂に入る羽目となった。
脱衣所で死覇装と下着を脱ぎ捨て、いざ浴室へと入ろうと戸に手を掛けた瞬間、替えの下着を用意するのを忘れたことに気が付く。
「あー…どうしよ」
風呂から上がってから取りに行けば良いか、と思うも寝間着は用意してある故に此処で着替えを済ませられないことに面倒臭さを感じる。どちらにせよ取りに戻らなければならないのなら今行ってしまった方が良い。
お目当ての箪笥へ向かおうと何故か忍び足で脱衣所を出た瞬間、真っ直ぐ伸びた廊下の先にある玄関の戸が開いた。ということは、入ってくる人物はただ一人。
敷居を跨いだ坊主頭の恋仲の彼は早々に私の姿を視界に捉えたようで、二人して視線を交差させたまま固まる。
「お…おかえりなさい…」
こんな真っ裸で出迎えたことなど無い。何も言わず険しい顔で私を見据える一角さんに鼓動が速くなり、今すぐ駆け出したい気持ちを堪えながら、取り敢えずはさらけ出している胸を腕で隠した。
険しい表情から一変、見る見るうちに口角を上げる彼に冷や汗のようなものが滲み出るのを感じ、止めていた一歩を踏み出そうとした瞬間。
「ツイてんな」
そう言う一角さんが私の元まで辿り着くが先か。私が脱衣所へ引き返すが先か。
分かるのは僅か数秒後。
2024.10.08
斑目さんとお見合いする貴族の女の子のお話
だからと言って何故私は頭が眩しく照り返された丸坊主の男と向き合わなければならないのか。今この時、それだけを頭の中で何度も考えていた。
「十一番隊副隊長なら十分過ぎる肩書きではありませんか」
仲人の女性の言葉に今一度向かいに座る丸坊主の男を見やると、彼はとても不機嫌そうな顔で私を見ていた。その目付きは物凄く悪くて、何故か目尻にあかい化粧を忍ばせている。十一番隊と言えば戦闘専門部隊の異名を持つ、野蛮な死神が多いと認識しているが、彼の人相から受ける印象はまさにそうだ。
真っ黒な死覇装の上から腕に付けているのは副官章と言うらしく、間違い無く護廷十三隊十一番隊の副隊長という事実を示していた。さぞ実力のある方なのだろうが、誰がどう見ても彼はこのお見合いに乗り気では無く、寧ろ早く帰りたいとでも言いたげな顔をしている。
「私達が居ると何かとお話しし辛いこともあるかと思いますので。ここから先は若いお二人だけで」
お見合いの常套句を口にする仲人さんと、隣で物凄い笑顔を浮かべる父に縋るような視線を送っても何も効果は得られず、二人は私達を残して部屋を後にしてしまった。
当たり前に二人共に声を発さず、この沈んだ空気を何とかしたくて出たのは私がずっと疑問に思っていたことだった。
「あの、一つお聞きしても宜しいでしょうか」
そう口にすると、伏せていた視線を私の方へと移す男に更に言葉を投げ掛けた。
「どうして禿げてらっしゃるのですか?」
「ハッ…!?」
心底驚いた顔をした彼は私がそんなことを聞いて来るとは思っても見なかったのだろう。直後に青筋を立てながら口角を上げる男の姿に身構えた。
「上等じゃねえか…!お姫サマだろうが手加減しねえぞ…!」
「いや貶してるとかでは無いのですよ?何故禿げてらっしゃるかって、素直な疑問なんです」
「ハゲてねえよ!!剃ってんだコレは!!」
「そうでしたか。てっきり苦労されておられるのかと」
「嫌味ったらしい小娘だな、ったく」
今度は私が男の言葉に驚かされた。生まれてこの方小娘などと言われたことは無く、気付けば失礼極まりない彼に大きな声を出していた。
「小娘ですって!?なんて失礼な方なのですか貴方は!」
「お前の方が失礼だろうが」
自分を落ち着かせ、もう一度男を見ると私を貴族の娘と思っていないような姿勢に呆れた。面倒臭そうに頬杖を付き溜め息をつく姿に、つられて溜め息をついた。もうお開きにして貰おう、と立ち上がった瞬間、襖に張り付いているものに大きな声を上げてしまった。
「ゴキブリ!!!」
「あァ?」
「あァ?じゃないですよ!ゴキブリが居るって言ってるでしょうが!」
「ゴキブリとしか叫んでねえじゃねえか」
ったく、と立ち上がる男にもしかして退治してくれるのか、と思ったがここで鬼道でも出されたら大変だ、と傍にあったこの男の写真が入った台紙を手にした。それを思い切り振り上げバン!とゴキブリに叩きつけると、そのまま身体が固まった。
「大変申し訳無いのですが、助けて頂いてもよろしいでしょうか」
「何をどう助けりゃ良いか分かりやすく説明しろ」
「この台紙退けるのが凄く怖いんです」
「もうくたばってんだろ」
「いや分からないでしょう。あとそういう問題では無いのですよ」
貸せ、と言う男に台紙を預けると直ぐにそれを退かすさまに思わず彼の死覇装を掴んでしまった。その直後、いきなり開いた襖に驚くと仲人さんも驚いた顔で私達を見ていた。
「あらあら、何かと思えばもう親密になられて。安心しました」
彼女の言葉に呆けるも自分がこの男の死覇装を掴んでいることに我に帰り、直ぐに手を離して咄嗟に彼と距離を置いた。
心臓の音が速くなっているのは、きっとゴキブリを叩いたことによる恐怖からだろう。