青空に浮かぶ白い雲を眺めながら、自分の口から薄い煙をゆっくりと吐き出す。ゆらゆらと漂うそれが風に掻き消されたのを確認して、再び煙を吐き出した。見つからないように狭い空間に無理矢理体を押し込めているせいで、制服や地面に灰が落ちないようにするのが大変だが、それでも吸わずにはいられなかった。そんな日が続いて何日、いや、何ヶ月だろう。長く連なった灰が携帯灰皿に落ちるのを眺めながら、目の前には全く違う情景を思い浮かべた。

ただ、興味が湧いた。
テーブルに置かれた兄の煙草は旺盛な中学生の好奇心を擽るには十分だった。まるで万引きをするかの様な異様な胸騒ぎは、今でもよく覚えている。初めて口にしたそれは、お世辞にも美味いとは言えなかった。しかし、一回、二回と吸う回数は一向に減らず、遂には一本を吸い終えて二本目へと手を伸ばしていた。さっきまで確かにそこにいた罪悪感は吹き飛んで、言い様もない感情が心を満たしていた。

それからというもの、たまに兄から煙草を貰い、どうしても吸いたくなるとこうして屋上の隅へと身を寄せて煙を吸っている。給水タンクの奥の、太いパイプが柵の様に並んだ場所、そこがスポットだ。ここなら簡単に人が入らないし、万が一灰を落としても見つかりはしない。


「お、やっぱここにおったんか」


―――この人を除いては。


「またですか…謙也さんも暇ですね」

「わざわざこないな場所に来てまで煙草吸ってるアホには言われる筋合いあらへんわ」


「わざわざここまで来てそのアホに付き合ってる自分は何なんだ」と言おうとしたが、面倒だったので煙と一緒に飲み込んで飛ばしておいた。狭いこの場合では隣に座れない為、先輩は近くにある太いパイプの上に腰掛けている。


「光、あれやってや。煙でドーナツ作るやつ」

「ああ…ええですよ」


先輩は、俺が煙草を吸うのを止めはしない。それどころかこうして会話したりふざけたりと、いつも通りの姿勢を崩す事はなかった。先輩のお望み通り、口から何個かドーナツを作って吹き出すと、まるで子供の様に喜んで小さく手を叩いた。


「ほんま凄いわあ、何で簡単に出来んねん」

「コツさえ掴めば…まあイルカでもやれるんですから簡単ですわ」

「お前、イルカって頭ええんやで!なめんな!」

「…何で謙也さんが威張るんですか」

「細かいことはええねん」

「ほんなら謙也さんもやってみます?」


そう言って煙草を差し出したが、先輩はそれを苦笑いで押し返した。


「悪いけど遠慮しとくわ」

「…」

「俺には必要ないからな」

「…そうですか」


ボロリと崩れた灰は、地面に落ちる事無く宙を舞っていった。


先輩は、俺が煙草を吸うのを止めはしない。

それはきっと、止めたとしても俺がやめれないことを知っているからだろう。





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私自身煙草吸わない&吸えない人間なので、いろいろと偏見と捏造込みです。

人が何かに依存してる姿がすごく好きです。





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