式の開始…というより新郎新婦の入場までにはまだ時間があって、部屋の中にあった鏡を覗き込む。自分でするのとは全然違うメイクを施された顔は自分ではないかと錯覚するほどだった。友達の結婚式に参加したことは何度かあったけど、主役ともなるとやはりその心持は大きく違っていてむず痒くもある。
コンコン、と控えめなノックの音に緊張しながらも、どうぞと返した。多分、長太郎だと思う。

名前、気分はどう?」

当たり。何となく来る気がしてた、いや新婦の控え室に新郎が来るのは普通かもしれないけど、それが家族や友達ではなくて、長太郎であるという予想というより確信。第六感っていうのかな。霊的って言うよりも直感でそう思った。

「何か長太郎に呼び捨てされると、なあ。」
「嫌?」

どこか拗ねたような表情が可愛くてすぐに首を横に振って否定した。
「そんなことないよ、慣れないだけ」

プロポーズされてもしばらく、最近までまだ"先輩"と呼んでいた彼があまりにも自然に私の名前を呼ぶのでちょっと違和感を覚えた。そのくせ、ずっと前からそう呼ばれていたような気もして矛盾していて自分でもよく分からない。

「似合ってるよ、ウェディングドレス。」
「長太郎が選んでくれたんだもん」

白にほんの少しの、とても薄い水色を混ぜたような綺麗な色のドレスを見たとき、長太郎が絶対これがいいと言ったことを思い出して笑った。私もこの色が気に入ったし、何より長太郎が選んでくれたことが嬉しかった。既に結婚式を終えた友達は男の人ってそういうこと、結構無頓着なところがあってと愚痴られたこともあったから予想外に嬉しかった。

「長太郎もタキシード、似合ってる。」

普段からかっこいいけど、こういうピシッとした服が良く似合う。見違えた。いつもより大人っぽくて背も高く見える。普段からかっこいいけど。何故か柄にも無く緊張してしまい、言葉が続かない。いたっていつも通りな長太郎が少し羨ましくもあった。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、此方に近付いてきてソファに座る私の前に跪いた。

「……長太郎?」

私の問いかけを無視して、おもむろに自分の首の後ろに手を回した。僅かな金属の触れ合う音で、ネックレスを外していることが分かった。外しちゃうんだ、と思うと少し哀しかった。彼は「お守り」と言って、どんなときもそのネックレスを身に着けていた。私が見る限りで長太郎がそれを外すところを、見たことは無かった。親近感、とでも言うのだろうか。


「これ、名前にあげる」
「…え?」
そういって外したネックレスを器用に私につけて、満足そうに頷いていた。
「…え、あー、うん。ありがと」でも何で?

素直にその疑問を口にすると、それまで平然としていた長太郎が何か言い辛そうにしていた。

「これをくれた人がさ、一番大切だと思う人が出来たら、その人に渡してやりなさいって言ったんだ」だから、と。

私は単純に嬉しくて、プロポーズのときにも似た甘酸っぱい気持ちが込み上げてきて思わず笑みがこぼれてありがとうと呟いた。それは長太郎が私を一番大切な人だと思ってくれると、そう思っていいのだろうか。自惚れてもいいのかな。そんな最高に浮ついた、幸せな気分で、私は彼の隣で息をして居る。

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