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Side:hope
ライトニングが今までに見た事のない程口に手をあてて拭き出す笑いをこらえている。
「ライトさん!笑いすぎです!」
セラとノエルにいたっては大爆笑で、スノウは誇らしげに拳を掲げている
笑いのネタは僕が記憶を戻すきっかけがスノウの渾身の一発だったことだ
僕にエアーバイクを貸した後スノウは義姉さんへのバースデープレゼントだ!なんて言って近所の花火を買い漁ってセラとノエルも手伝いに呼ぶ始末だった。
結果スノウのおかげでライトさん曰く『願いの叶う花火』を拝む事ができたわけだ
皆は花火を片付け、僕の部屋に向かっていた
「ぇえ!?ホープ、お前いっちょ前にこんなでっかいマンション持ってんのか!」
「アカデミーのマンションなんです。」
セキュリティーロックを解除し、ドアを開ける
「わぁーー!広――い!」
セラが感心したように抱えていたモーグリを部屋に開放する
今夜はもう遅い事を考慮して皆うちに泊まっていくようにすすめたのは僕だけど、思ったより何とかなりそうで安心した。
「じゃあお姉ちゃんと私は同じベットで寝よう!」
セラがそう提案するとノエルは
「じゃあ俺はリビングのソファーを借りようか」
そう言って荷物をおろした
「えっ!セラ!俺は!ホープと同じベット?」
スノウは不服そうに声をあげている
僕の家には僕のベット、今はライトさんが使っているゲスト用のベット、リビングのソファーぐらいしか横になれる場所はない
「スノウはベットを使って、僕はカーペットでいいから」
「よせ、ホープ、だったら客の俺が床でソファーを譲るよ」
なんていう譲り合い合戦が勃発した
「皆仲良くするクポ!ご主人様とモグとホープ、スノウとセラが同じベットで、ノエルがソファーで寝れば全部解決クポ!モグは賢いクポ!」
モグの自信にあふれた提案に僕は心の中でガッツポーズをした
モグの天然さに僕はどれほどいい思いをしているだろうか…
「私とスノウはそれでかまわないけど…」
「よっしゃ、セラと一緒!」
僕は浮かれている考えを一掃しライトニングの方を見る
ライトニングはなんでもない顔をしている
「私もそれでかまわない」
部屋割りが決まり 荷物を置きに一端部屋に入る
「モグはご主人様と一緒クポ〜」
とライトニングを追いかけるモーグリをノエルが捉えた
「だめだ、お前は俺と一緒でリビングな」
「しょぼーんクポォ…」
荷物を置き、ラフな格好に着替え、リビングに集まり酒宴が始まる。
一応はライトさんのバースデーパーティーらしい。
「すいません、こんな物しかなくて」
冷蔵庫の食料を駆使してホープはいろいろなつまみを慣れた手付きで仕上げてゆく
それにセラのヘルプがつけば、沢山の料理が仕上がってゆく
「「ハッピーバースデー!」」
みんなでライトニングの誕生日を祝う。
ライトニングは幸せそうだった。
パーティーも落ち着き、いい具合に酔っ払ったスノウがセラに、セラがライトニングに纏わりついていた。
「ノエル君空いてるうちにシャワーでも浴びてきたらどうですか?」
空いた皿をキッチンに運びノエルにそう促すとノエルはそうするよ、と言ってシャワールームに消えていった
一通り片付け終えたところでノエルがほかほか湯気をたたせながらリビングに現れた。
酔っ払って手の付けようのなくなったセラとスノウをゲストルーム、今はライトニングの部屋に押し込む
僕がシャワーを浴びて部屋に戻った頃には、ノエルはリビングでモーグリを腹に乗せてすやすやと眠っていた。
人の気配に敏感なノエルが僕の気配を感じ取ったのか身動きをとるのを見て、ライトニングがルシ時代睡眠中でも警戒を解かなかった様子を思い出した。
―ライトさんに弟がいたらこんな感じだったりするのかな?
なんてことを考えながら足音をたてないようにあるき、自室に入る。
ライトニングは既にシーツに包まってベットに横たわっていた。
さっきまでシャワーを浴びながら、この状況をどうしてくれようなどと考えていた甲斐もなく少しほっとしたが、僕がベットの淵に座るとライトニングは身じろいだ。
「ホープとこんな風に寝るのは久しぶりだな」
背をこちらに向けたそのままの状態でライトニングはそう声をかけてきた
「すいません、起してしまいましたか?」
「気にしなくていい、起きていた。」
僕もごろんとライトニングの隣に横になる
「本当に久しぶりですね」
そう言いつつ僕はまたルシ時代の事を思い出していた。
ライトニングと2人行動をしていた時は野営を経験していたし
みんなで行動するようになった後も、僕はライトニングの近くで寝る事が多かった。
「でも、あなたがそんな風に無防備に眠る姿は初めて見ます。あの時は座ったまま、常に警戒を絶やさない、そんな眠り方に見えました。」
目を閉じているとあのころの事が今でも鮮明に思い出せる。
あれから何百年と時が過ぎているというのに不思議なものだ。
「軍人の性だ。軍では身を守るという意味では女は夜が一番危険だったからな。でも今はそんな必要もないだろう」
ライトニングの言葉を聞いて、狼の中に放り込まれた羊が狼たちを蹴散らしている想像をした
「分かりませんよ、僕だって一応男なんですから」
僕は自嘲の念を込めてそんなことを言っていみる。
好きな女性が触れようと思えば触れられる、しかも同じ家に住んで同じベットで寝ているなんて状況、理性が外れてライトニングを襲ってしまってもおかしくない。
「ホープなら……かまわない」
ライトニングの爆弾発言に僕は思わずライトニングの事を凝視してしまった
視線を感じたのかライトニングは包まっていたシーツにさらに体をくるませた
「ダメですよ、ライトさん。僕はそんなに紳士じゃないんです」
そんな風に言ってみるもライトニングのあまりにも大胆な発言に自分まで顔が火照るのを感じた。
「…でも…これは私の我儘だが、私の心の整理がつくまでそういうことは待って欲しい」
その言葉に僕は彼女の心について少し奥まで触れられた気がして安心する。
もしかしたら彼女は僕が望めば受け入れてくれるかもしれない、彼女になにか思うところがあるのなら、僕はそれを尊重したいと思う。
「ゆっくりでいいんです、僕はいつまでも待ちますから」
ライトニングの頭をぽんぽんと撫で、笑って見せる
いつも彼女が僕にしてくれていたように
「……もう一つ我儘を言ってもいいか?」
ライトニングは寝返りをうってこちらを向き、シーツで顔を隠しながら今にも消えそうなほど小さな声でつぶやく
「今日はお前のことを抱しめて眠りたい」
ライトニングに抱えられてベットに横たわる。
彼女からは特有の良い香りが漂ってきて、僕は大きく深呼吸をした。
この香りは僕を落ち着かせるような、僕にとっての精神安定剤のような作用すらあるのではないだろうかなどと考えてみる。
僕は幸せ者だ…モグにお礼を言おう。
そんな事を考えながら、暫らくするとライトニングからは規則正しい寝息が聞こえてきて、僕も眠りにつく。
朝
眩しい日差しの中、シャッター音で僕は目を覚ました
そのままライトニングに抱えられて寝たようで彼女を起しては申し訳ないので身動きがとれない
「ほらぁー、ホープ君起きちゃったじゃない」
「仕方ないだろぉ勝手にシャッターが光ったんだから…」
セラとスノウがちいさい声で言い合いをしている
その声にライトニングが少し身じろいで目を覚ました
起きてすぐライトニングはベット脇にいるセラとスノウを発見し、慌てて起き上がった
「おはようお姉ちゃん!とってもホープ君と仲がよろしいご様子で」
セラはにまにまと笑いながらライトニングをからかっている
「しっかし、義姉さんのこんなに安らかな寝顔俺初めて見たよ、よっぽどいい抱き枕なんだなホープは」
スノウはさっきとったであろうライトニングと僕が眠っている写真をコミュニケーターで表示してライトニングに見せた
「なっ!お前達!なんて写真を!消せ!」
ライトニングは頬を真っ赤にしてスノウに掴みかかる
「わっ!セラ!パス!」
「えーっと、送信っと!」
セラがそう言うと僕とライトさんのコミュニケーターが同時に鳴った
「もうお前達は!」
ライトニングはプンスカと諦めてリビングに消えていった
「重たいくぽぉ・・・・・」
リビングに戻るとノエルがソファーでモーグリを枕にして眠っていた
セラと共に朝食を作り、それを皆で食べた後、来客を見送った
「昨日は最高の誕生日だったよ。ありがとう」
眩しい朝日を背にして ひとつ年をとった彼女は眩しく微笑んでいた。
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