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Side:Lightning
私は物音もしない部屋で薄い布団に頭から包まっていた
ホープの「いってきます」の声が頭の中を何度も巡る。そのたびに酷く胸が痛んだ。
頭の中で良くない想像だけが増殖していく。
ホープがこのままアリサの元へ行ってしまったら…そんな考えが拭いきれない。
確かにホープはホープでも、今のホープは私を慕ってくれていたホープではない。
ドクターが宣告していた記憶を取り戻す可能性のあるリミットはもうすぐで、もしこのままだったらホープはもう私の元には戻って来ないのだ。
優しいホープの事だからアリサの言う事を信じてアリサの元に行ってしまうかもしれない…
私は唇を噛み締める
元は私のせいで、私の不注意で招いた事、後悔してもしきれない。
何度も何度もそう考えていると私はある考えにたどり着き、はっとした
―ホープにとっては、このままが幸せなのではないか
いつホープの元から去るともしれない私より、ホープに心から愛を伝える事の出来る女の方がホープを幸せにできるのではないか。
私がホープの前から去ればホープはもはや辛い過去を思い出す事などない、前だけ向いて歩いてゆける。
だったら私はホープの傍にいない方がいいのではないか…
震えが止まらなかった。
突然家玄関が開く音がして玄関からホープの声が聞こえた
「ライトさん!」
私はすぐにベットから降り部屋のドアの前に立った
おそらく今の私の顔はひどいものだろう
私が廊下に出るのをためらっているとホープがいきなり部屋の扉を開けた
「ライトさん!来てください!」
私の腕を引っ張り外へと連れ出す
唐突すぎたホープの登場に成すがままにされてしまう。
「しっかり捕まってくださいね!」
そうとだけ言うと、私をエアーバイクの後ろに乗せて勢い良く離陸した
うるさいエンジン音のせいでホープとの会話はできない
私はせめて振り落とされないようにとホープの肩とエアーバイクを掴んでいた
エアーバイクは高速で夜の街を駆け抜けていく
そのスピードから、おそらくこのエアーバイクは改造してあるものだろうと思った
暫らくして私は心臓を締め付けられるような苦しさに襲われた
訳も分からずホープに連れ出されたが、私達が今どこへ向かっているのかは遠くの前方で確認できる花火がもの語っていた。
「ホープ!どうして!」
私の叫びはエアーバイクのエンジン音にかき消された。
到着した頃にはもう花火は終わってしまっていて、観光客は皆帰ろうとぞろぞろ歩き始めていて、浜辺の人通りはまばらだった。
「間に合わなかった…」
エアーバイクを降りるとホープは悔しそうにそう言った
ホープは私に背を向けている状態で私の目の前にはホープの肩がある。
その状態でどちらからともなく浜辺が見渡せる場所まで歩いて立ち止まる。
ホープはこちらを振り向かず言葉を続けた
「思い出したんです。全部。」
ホープの言葉に私は声をあげることができなかった
ついさっきまで思い悩んでいた悲しい事と今の状況が入り混じって自分でもよく分からなかった。
「ライトさん…僕は…大切な事を忘れて…あなたに酷い事を…
一番大切な貴女の事も、今日があなたにとってどういう日なのかも忘れていて…あなたを一人にしてしまった。」
ホープは拳を握り締めて、その拳を震えさせている。
その姿は、とても悲しそうに見えて、見ていられなかった。
「僕はあなたにどんな顔をして謝ればいいか…」
まるで子犬のように震えるホープの背中を、私はいつの間にか両腕で包みこんでいた。
「ごめんなさい…」
ホープの大きな背中が腕の中で少しだけ震えている
「謝らなくていい…。お前は何も悪い事をしていないさ、むしろ私の方が謝らなくてはならない。お前がケガをした原因は私だろう」
「…あの時は必死でしたから…貴女を守らなきゃ!って」
ホープの言葉を聞いて私はさらに腕に力を込める
少年だったホープの華奢な背中はやはり立派に成長していて、今ではやはり成人した男性なのだということを思い知らされる。
「もう花火は終わってしまったけれど…ライトさん、お誕生日おめでとうございます。もっとちゃんとお祝いしたいんですけど、急いでいてプレゼントも無しに…すいません」
ホープが申し訳無さそうに悲しそうな顔をして俯いた
ホープにそんな顔をさせてしまうことに不甲斐無さを感じる
「もう謝らなくていいから、顔を上げてくれ…気持ちだけで嬉しいよ。」
私はそっとホープの頬に手を添えた。
意識せずともホープと目が合う
「私は…さっきまで、ホープは私といるよりアリサといる方が幸せになれるんじゃないか…なんてことを考えていたんだ…でも、想像したら怖くて……。私は…どうしようもないくらいホープの事を愛していた事に気がついたんだ。」
私が言葉を噛み締めながら、自分の気持ちをホープにぶつけるとホープはふわりと、そして力強く私を包みこんだ
「ライトさん…っ!」
力強くホープに抱しめられ、ホープの鼓動を感じる。
荒んでいた心が安らいでいくのを感じた。
ああ、やはり私の居場所は…ここだ。
少し離れた木影の向こうで小さな花火が上がる、
私とホープは体を離し、花火を見ると花火を上げている人物を見て笑い出した。
「行きましょう、ライトさん、みんなが待ってます」
ホープが花火を上げているスノウ、セラ、ノエルの方に向かって歩き出す。
私はそんなホープの手を掴み、思い切り自分の方に引き寄せた。
ほんの数秒の間、ホープと唇が触れる。
ホープの驚いた顔と自分がしてしまった思い切った行動に、急激に恥ずかしくなり、私はその場から逃げるように走り出した。
「行こう、ホープ、願いの叶う花火だ!」
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