Lost Memories 6

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Side;Hope

僕はホープ・エストハイム

いつどこで生まれ、どんな環境で育ち、なぜ旅立ち、何故今ここにいるのか

僕は知っている。知っているはずだ。

それなのに、僕の古くからの知り合いライトニングと名乗る彼女の話を聞いても実感が持てなく、僕は確かにその場にいたはずなのに感じた事が思い出せない。

それどころかむしろ、もっといろいろあったはずの事すら思い出す事ができない。

まるで自分の過去から色が無くなってしまったような、感情が無くなってしまったような。

色の無い世界を僕は生きているような気がした。

まるで、心に開いた大きな穴を塞げるものを探しているかのように。



体の方の傷の方は順調に回復して、夏が終わる頃には仕事にも復帰できそうだった。

ライトニングがリビングで紅茶を飲みながら雑誌をパラパラめくる斜め前に僕は腰をかけて同じように紅茶をたしなむ。

ライトニング曰く僕達は仕事が休みで出かける用事が無い時はよくリビングでこうして過ごしていたらしい。

ライトニングの横顔を見ていると、夏の太陽の光が反射してとても美しく輝いているように見えた。ふと、自分とライトニングはどういう関係だったのだろうという疑問が芽生える。

僕がまだ幼い頃からの知りだということは彼女は姉のような存在なのか…? 僕は彼女に聞くにも聞けず今まで過ごしてきた。

心にもやもやする何かに葛藤していると、テーブルの上にあるコミュニケーター振動し、ランプが光った。

「ホープ先輩!今大丈夫ですか?」

声の主はアリサだった。

「あのですね、今日花火大会があるんですよ!良かったら2人で一緒に行きましょうよ!」

「そうなんですか、でも何故僕と?」

花火大会だというのなら、仕事の先輩と2人で行きたい!というのもおかしな話だと思い、その疑問をアリサにぶつけてみる

「もーホープ先輩やだなぁ〜、今日の花火大会は、恋人と見ると幸せになれるって噂の花火大会だからですよぉ〜。ホープ先輩行きましょう!あっ、ちょっとすいません、また後で連絡しますね」

一方的にコミュニケーターが切れた

「…アリサか、声が大きいからコミュニケーターから漏れる音でなんとなく分かる」

ライトニングが雑誌を読みながらそういった。

「ええ、今日どこかで花火大会があるらしくて。『恋人と見ると幸せになれる』花火大会らしいんですけどライトニングさん知っていますか?」

彼女に問うとすぐにはっとしたように答えた。

「ああ、ネオボーダムの花火大会だ…そうか…今日は…。そう言えばこの雑誌に記事が載っていたな」

ライトニングは雑誌の記事を素早くめくり、該当するページを開いて手渡してくれた。

雑誌には

恋人と見ると幸せになれるというエピソードにまつわった記事や、花火の種類、時間、近隣のおススメの店などが載っていた。

「…なんだか懐かしい雰囲気のビーチですね、ああそうだ、今の電話これに行かないか?という誘いだったんです」

僕がそう言うとライトニングの顔色が変わったような気がした。

しかしライトニングはすぐにいつもの調子で そうか とだけ返した。

僕は少し考えた後 ライトニングにまた質問をした。

「アリサは自分は僕の恋人だと言うんです。でも申し訳ない程実感が沸かなくて…何かアリサの事を思い出すかも知れないので今日の花火大会行ってみようと思うんですけど・・・」

調度良くまたコミュニケーターがなり、メッセージが表示される。

『今日の5時ごろマンション前で集合です。早めに行ってごはんでも食べましょう アリサより』


ライトニングは立ち上がり、キッチンに飲みかけの紅茶の入ったカップを置くと自分の部屋の方へと歩いて行った

ライトニングは何も言わず部屋に消えて行った



僕はアリサに指定された時間までに支度を済ませ

「ライトニングさん、いってきます」

彼女の部屋に向かって声をかけたが返事はなかった。僕はそのまま部屋を後にした。





マンションを出ると留められたアリサが私服で嬉しそうに立っていた

アリサと歩いて駅にむかい、ネオボーダムに行ける電車に乗った

窓の外の景色はアカデミアの近代的な風景から緑の溢れる街へ、そして海辺のボーダムまで1時間程度で到着した。

僕達が到着した頃にはもう既に人で賑わっていた

大人気だという海辺のカフェは特に人であふれ返していて

そのカフェに入るまでにまた時間を要した

ようやくカフェに入り、料理をオーダーする

「こんなに混んでるならもう少し早くく来れば良かったなぁ…花火が始まっちゃう」

アリサが膨れていた

料理は思ったよりすぐに運ばれてきて、軽めの夕食をとる

「…おいしい!この浜辺といい料理といいなんだか凄く懐かしい気持ちになる」

僕がそう言うとアリサはまた拗ねた。僕は少しだけ頭痛を覚えていた。

「ホープ先輩っ!今日は私の事だけ考えてくださいよ〜!」

花火に間に合うように急いで料理を平らげて浜辺の方へ出ようとすると店の入り口の脇でエアーバイクをいじる金髪の大柄な男に声をかけられた。

金髪を後ろに流し、無精ひげが特徴的な男だった。

「よぉホープじゃないか!なんだ?義姉さんとデートか?」

その男は僕の事を知っているようだった。

同時にアリサが僕の腕に自分の腕を絡めてきた

「初めまして!アリサゲイデルって言います」

大柄の男にアリサがそう自己紹介すると、大柄な男は明らかに顔色をかえた

「は…?」

怒りを含んだような声だったが、何かを思い出したようにその男は「ああそうか、全部、忘れちまったんだったな…」とつぶやいて悲しそうな顔をした。

「すいません。…あなたは僕の知り合いだった方ですよね

僕がそう言うと大柄な男は何も答えなかった。

何故だが心と頭が凄く痛んだ。

後ろの方で花火の上がる音が聞こえ、アリサが浜辺の方へとかけ出す

僕は大柄の男に軽く頭を下げてアリサの後を追った。

「わぁーー!綺麗!ホープ先輩!」

アリサは楽しそうにはしゃぎ、僕の腕に絡み付いてくる

暫らく浜辺で花火を眺めているとアリサが僕の方をむいた



「ホープ先輩…好きです…ずっと一緒にいたい…恋人はここでキスするとずっと一緒にいられるって噂、私信じてるんです。だから…」

アリサはそう言って目を閉じた。

頭がズキンと痛んだ

不意にいつか見たような景色が頭に浮かんだ。

―僕は、誰かを愛していた事を忘れていたみたいだ

ここはなんだか懐かしい。




―そうか、ずっと感じていた心の穴は…愛を忘れた事だったのか



じゃあこの虚しさは、今解決できる…?

アリサの頬に手をあて少しかがんで顔を近づける

同時に心が酷く痛んだ

僕は間違っている?

また頭が痛む

これでいいのか僕は?たとえ目の前の彼女が恋人を名乗っていても、僕はもっと大切な…他の誰かを…

「ごめんアリサ、僕は…」

後ろから凄い足音が聞こえてきたと思うと、僕は肩を凄い勢いで掴まれ、そのまま殴り飛ばされた。

そのまま僕の体は宙を舞い砂場に叩き付けられる。

口の中からは鉄の味がし、周りからは小さな悲鳴があがった。

あまりの衝撃に倒れた僕は体を起そうとすると声が飛んできた

「ホープ!思い出せ!俺達の、お前と義姉さんの絆はこんなことで塗り替えられていいもんじゃないんだよ!!」

僕がなんとか立ち上がるとさっき店の横で声をかけてきた大柄な男が息を切らして立っていた。

大柄な男は拳を握り締めて震えている。

さっきまで痛んでいた頭が嘘のようにすっきりとしていて、僕は自分がしていたとんでもない過ちを、大切な事を全て思い出した。


僕は!


僕は目の前の大男に掴みかかった


「エアーバイクを貸して欲しい!早く!」

考えるより先に体が動いた

エアーバイクの元に駆け寄ると後から追ってきた大柄の男が僕の胸の前に拳を付き出す

その拳から鍵を受け取るとすぐにエンジンをかけてエアーバイクにまたがる





『ありがとう!スノウ!』





僕は急いでエアーバイクを走らせた





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