Lost Memories 5

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次の日の朝

ホープの病室を訪ねるとアリサがお見舞いに来ていた

私が病室に入ろうかやめとくべきか病室の入り口で迷っていると気付いたホープが私に向かって声をかけてきた

「おはようございます!えっと…ライトニングさん」

私はドアをゆっくりとあけ顔を覗かせる

ホープの口からこぼれたライトニングさんという言葉にも胸を締め付けられる。

―私の事をライトさん!と慕ってくれるホープはここにはいない。


「一晩寝たら、自分は何者で、どういう人間でなのか…仕事の事も思い出したんです。周りの人間関係はまだちょっとおぼろげですが…」

「もーホープ先輩!私の事も忘れちゃうなんてひどいですー!あっ、じゃあ改めて自己紹介しますね。どうぞ」

アリサはそう明るく振舞って私に話を振ってきた

現実を受け入れられない私はその明るさに少しだけ救われた気がしたのだが

「ライトニングだ。ホープとは昔からの仲間で…昨日の夜ここにいたセラの姉にあたる。…」

それ以上はどう話したらいいのか分からずに口ごもってしまう

「えっと私は、アリサゲイデルです!アカデミーではホープ先輩の補佐をやっていていつも一緒に行動してたんですよ!そしてプライベートではホープ先輩の恋人ですっ」

「なっ!」

アリサの恋人という言葉に私は声をあげる

確かにホープと私ははっきりとした恋人関係にはなかった。

それは私が決心し兼ねていただけで、ホープの心は私に向いているものだと思っていた。

アリサの言葉の真意が読み取れず、ただ悶々と考え込む事しか出来なかった。

「…ダメです、全然思い当たることがなくって。もしかしたら普通の生活に触れれば思い出すこともあるかもしれないですし…」

ホープは悲しそうに頭を押えている

「それなら私も協力できる。私はホープの家に同居させてもらっているんだ。だから、今までどおり生活をしてみれば何かしら思い出すだろう」


それからホープが退院してくるまでの間はホープの家で一人で過ごした。

私は軽症だったとはいえ、仕事に復帰するまでには休養だというドクターの判断でホープも私も暫らくの間自宅療養となった。


ホープのいない部屋で、ホープが退院する日を待つ日々の中で大分心の整理が付いた。

ドクターが言っていた期間の内にならば、ホープが記憶を取り戻す可能性は十分にありえる。

それまではホープが混乱しないように、私がホープの支えにならなくては…

ホープが身を挺して私を守ってくれたように、私はホープに償いの意を込めても私ができることを身を挺してしてあげたい。

そう思いながらも私は現状が恐ろしかった。



ホープの退院の日、私はホープを病院まで迎えに行った

ホープは病院から家の道が分からないようだったが、大通りに出ると何かを思い出したように、自ら記憶を頼りに自宅の方へと歩いた。

「不思議なものですね、どういう風に自宅へ帰ればいいかは分かるんですが、ここが自分の家だという自覚が持てないんです。」

ホープは部屋に入ると切なそうにそういった

私はリビングにホープを座らせると紅茶を入れる為にキッチンに向かった

「そういえば、あの日に私達はティーカップを買ってるんだ、お前の荷物の中に入っていなかったか?」

私はあの日、ホープとショッピングに行ってホープが気にいって買ったティーセットの事を思い出しホープに問いかけた

「ああ…それでしたら、落ちた時にひどく割れてしまっていたようでアリサが処分してくれたんです。…もしかして、大切なものでしたか?」

ホープはまた不安そうに私の顔をうかがった

私はその事に若干胸を痛めつつ仕方が無いと割り切った

「また買いにいけばいいさ」

不揃いのティーカップにホープの愛飲していた紅茶を注ぎリビングへ向かう

「これが、お前の好きだった紅茶だ」

ホープの前に差し出すとホープはカップからあがる湯気の匂いを堪能し、安心したように顔を緩ませた。

その様子を見て私も少し胸を撫で下ろした

「ライトニングさん、昔のお話をしていただけませんか?何か思い出せるかもしれないので…」

「そうだな…どこから話すべきか…お前は何が知りたい?」

私達の事を忘れてしまったホープに今までの出来事を話すにはあまりに重たすぎる

まるで物語のような私達の人生。その中でホープは辛い経験をしている。

全てをホープに話すとしたら、全て忘れたホープにとっては話のスケールが大きすぎる。

「では、ライトニングさんやライトニングさんの妹さんと僕の出会いの所からでお願いします。」

ホープは私の方にむきなおって耳を傾ける


「少し、いや大分長くなるがいいのか?それにお前にとって辛い過去でもあるんだ。」

ホープはそれでもいいとうなずいた。



「数百年前の出来事だが……」

私はボーダムにいた頃、パルスのファルシにルシにされたセラを助けるために旅に出た事。

ホープの母親が亡くなってしまったこと。

旅の途中でホープや仲間に出会い共にルシにされてしまったこと。

困難を乗り越えパルスの大地を駆けた感動。

オーファンを倒し、たくらみを阻止して世界を救ったこと。


かけがえのない仲間のヴァニラとファングがクリスタルとなって世界を支えている事。

私がヴァルハラに旅立ったことで、ホープがこの世界にタイムスリップしてきたこと。

セラとノエル、スノウがいまだに旅をしている理由。

一つ一つ思い出しながら丁寧に話してゆく。

私が全てを話し終えるとホープは今にも泣き出しそうな顔をしていた

まるで出会った時の少年に戻ったように。


「お前に話すには少し早すぎたかな…すまない」

私は悲しそうな顔をしているホープを見て心苦しく感じた

「違うんです。なんとなく残っているんです。でも、実感がないんです。確かに僕はそこにいたはずなのに、まるで色のない世界にいるようで…そのことが悔しくて…」

ホープは唇を噛んで辛そうに顔を背けた

私はそんなホープの頭をなでてやる

昔よくやっていたように、今はもう逞しく成長したホープの頭を撫でた。

それからの毎日は虚無に満ちた生活だった。
ホープは確かにここにいる。
しかしここにいるホープは私たちの知るあのホープではない。
私を愛してくれるホープではない。
ホープなのにホープの皮を被った別の何か…想像をして私は自己嫌悪する。ホープがホープであることには変わりがないのに。
こうなったのは私のせい…私がもっと気を付けていれば…こんなことにはならなかった。
どんなに自分を責め、どんなに後悔しても無情に時は流れ、ドクターに宣告されたリミットが近づいて来ていた。




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