2/4
Lightning:side
あれからかれこれ3ヶ月
最初は慣れない仕事に疲れたりもしたが、最近ではホープの助けもあり、生活も仕事も充実している。
それにこの世の中を知らない私にとって第5ユニットの街での仕事は学ぶ事も多くあり、良いリハビリのようなものだった。
眠い目をこすりながら冷たいシャワーを頭から浴びる
眠い朝はこれが一番効く。
寝ている間にかいたであろう汗をシャワーの水で洗い流す。
――全ての嫌な事を、こんな風に洗い流せたらいいのに。
そんなことを考えても仕方が無いのだけれど、考えずにはいられない。
シャワーの水を止めると、水の音で賑やかだったバスルームが静まり返り、水滴がバスルームの床に落ちる音がする。
バスルームにある鏡をふとみてしまい、目をそむけた。
自分の体は好きじゃない。目立ち過ぎるこの容姿も、消えない胸の印も。
ファングにあったものと同じ色をしていて進行はしていないが
ファルシに操られるものがもつ烙印。
女神エトロが私をこっちの世界に戻す時に、ある夢を見せた。
『世界の未来を守る』
それが私の新しい使命だと私は認識している。
ファルシでも、オーファンでもない、神そのものに使命を与えられた私。
正直これからどうなるかは分からない。
世界を平和と呼ばれるに等しい状況にした時、おそらく私は永遠の眠りにつくだろう
もっとも世界の未来を守るなどとても遠いことのように感じるし、何をすべきかもいまいち掴めていない。
この烙印は達成しなければならない使命の印であり、同時に私は人間としての幸せは望めないという印でもあるのだと思う。
「ライトさーん!急がないと遅刻しますよー。今日は帰りに寄るところがあるのでエアーバイクで行きましょう」
ドアの向こうからホープの声がして私ははっと我に返る
そうだ、今は考えている場合じゃない。できることをやるんだ、と心にいいきかせる。
急いで髪を拭き、お肌の手入れと称して美容液を肌にしみこませる
これは、セラに言われてやっていることだ。セラいわくお姉ちゃんの肌は乾燥しやすいんだから、これ使わないとお肌がボロボロになるよ!ということらしい。
髪の毛をさっと拭いて、ホープのくれた制服に着替えて外に出る
「ライトさんっ!ちゃんと髪を拭いてください!風邪ひきますよ」
ホープが私の濡れた髪を見て驚いた表情を見せる
「どうせ行くまでに乾くだろう?」
アカデミーからこのマンションまでは分掛からない距離だ。
エアーバイクなら5分程度。
ホープがマンションの前にエアーバイクを止めて待っていた
「ライトさん、乗ってください!」
私は濡れた髪のまま、ホープの後ろにまたがる
「しっかりつかまっていてくださいね」
ホープの胴に手を回し、自分の体重をエアーバイクに乗せる
この乗り方をするのは数回目。
最初は恋人がするようなこの乗り方をするのは少々ためらいがあったが、慣れた今では楽しみになってしまっている。
エアーバイクが風を切って発進し、アカデミーへの航空空路を滑るように進んで行く。
肌にあたる風が冷たくて気持ちがよい。
あっという間にアカデミーの本社の前に到着する
私をロビー入り口に降ろすとホープはエアーバイクを駐車場に止めるために飛びたった
「では、また仕事が終わったら連絡しますね」
そう言い残し、駐車場へと消えていった
今日は仕事が終わったら、一緒にネオボーダム行く予定なのだ。
ネオ・ボーダムでは毎年花火が盛大に上げられている。今日はその日だ。
そもそもこの花火はスノウ達の仲間が数百年前に企画したコクーン、ボーダム復興花火の名残でもある。
仕事が終わり、ロビーで少し待つとホープが現れた
「お待たせしましたー。行きましょうか」
再びホープの運転するエアーバイクの後ろにまたがる
「30分以上は掛かると思います。夕食はあっちでとりましょう。飛ばしますよー」
ホープはエアーバイクのハンドルを握ると勢いよく発射させた
スリル満点だけれども安定感のある走り
「なぁ、ホープ。昔ヴァニラがホープのエアーバイクの運転は恐ろしいと言っていたんだが、何をしたんだ?」
ヴァニラの言葉を思い出しホープに問いかけてみる
「ああ…カタストロフィの時、最初僕はヴァニラさんと行動していたのを知っていますよね。」
ホープが思い出したように笑いながら話始めた
「パージ対象者の集まりの中でヴァニラさんに出会って、遺跡に行く事になって…駐めてあったエアーバイクに乗ったんですよ。
当然僕は14だったので免許持ってなくて、乗り方は分かったのでなんとかなりましたが今思えば無免許で盗んだバイクなんてどんだけ危ない事をしたんだっていう笑い話です。」
「そんな事があったのか…お前は機械に強いもんな」
「好奇心が強いだけです」
そんな雑談を楽しんでいると前方の遠くにパッと花火が上がった
「始まってしまいましたね」
「なんなら上空で見るか?」
エアーバイクが進むごとに花火が大きくなってくる
上空で花開く花火、海に映る花火。
花火を楽しむなんて何年ぶりだろうか。
前にいた軍でのボーダム花火は警備中に曹長と見たんだがな…
「懐かしいな…」
場所はおろか年代も全く違う花火を見て懐かしく思うとは不思議な事だ。
「僕にとってはボーダムの花火を見に行った事がすべての始まりでした」
「……」
「母さんを亡くしてしまったという辛い思い出もありますが、今思うとこれで良かったのだと思います。もしあの時花火に行っていなかったら、ライトさん達に出会う事もなかった。
そしたら、パージとは無関係なところでそこそこ幸せに暮らしていけたかもしれない。
その変わり僕は弱いままで、強くなろうと努力もしなかったでしょう。
守りたい物があったから今まで頑張ってこれたし、旅を通して本当に沢山の事を知れた。
あの時花火に行ったから、今の僕がいる。
後悔はしていません」
横から覗く横顔のホープの目は花火とはまた違った輝きを持っていて意思の強さが伺える
「私は……まだ、いろいろありすぎてよく分からない。本当にこれで良かったのか。でも、お前達5人に出会えて本当に良かったと思っている。」
自分で言った言葉に何だか恥ずかしくなってしまいホープの陰に隠れた
花火はまだまだ続いている
花火に見いっているとエアーバイクが急に加速しさらに花火に近づいていった
「ライトさん、貴女に出会えてよかった。」
「どうしたんだ、急に」
ホープの後ろにいるのでホープの表情を見る事は出来ない
「思った事を言っただけです」
花火が私達を包み込む
「…バカ。」
十分に花火を堪能した後でエアーバイクを人のいない浜辺に止めて花火を見ようと人ごみの中を進んで行く
数百年前にレブロ達が経営していたノラのカフェは今では数倍の大きさになって健在している。ネオ・ボーダムの地の始まりから共にあるのだ。
「夕食は、あそこののテイクアウトを頼みましょうか。」
「ああ、そうだな…」
私達が空中で花火を見ている間に大分混雑は解消したようで、ノラのカフェは人で賑わってはいるものの大混雑はしていなかった
「買ってくるので、ライトさんは先に場所の確保をお願いします」
「ああ。向こうにいる。後は任せるよ」
しばらくしてホープが紙袋を持って現れた
「バーガーと飲み物を買って来ました!」
ホープがそう言って袋からバーガーを取り出すと中から一枚の紙が落ちた
バーガーを二人で頬張りながらその紙を見て見ると今日の花火について書かれていた。
『ネオ・コクーン名物!願いの叶う花火…400年以上前から続く伝統的な花火!当時から営業を続けているノラカフェでは今年も花火にまつわる情報を発信!
花火を見ながら願い事をすると叶う!花火を見ながらキスをした男女はずっと一緒にいれる などのジンクスやノラカフェの特別メニューなども多数取り揃えて…』
紙にはまだまだ沢山の事が書かれていた
「…願いの叶う花火か…お前の願いはなんだ」
なんて、柄にもない事を言い出して見る
「僕の願いは…なんでしょうか。沢山ありすぎて絞りきれませんね。仕事がずっとスムーズに行けばいいと思ってますけれど」
ホープの真剣な顔に笑いがこぼれてくる
ネオボーダムの花火にそんな事を願うのはおそらくホープだけだろう。
「お前は、仕事の事しか頭にないのか…?」
「他に願うとしたら…、あなたと一緒にいたい」
ホープが急にそんな事を言い出すので私は驚いてしまったが、冷静な表情を崩さないようにこらえた
「…ホープ、さっきといい今といい、今日はどうしたんだ」
「………」
ホープの真剣な表情、綺麗な吸い込まれるような瞳に捕まってしまう
「ライトさん…目を閉じてください」
ホープの顔が近づいてくる
「え?あ…」
言われるままに私は固く目をつぶってしまった
頭に浮かぶのは先ほど見た紙に書かれていた キスをした男女はなんとかなどというジンクス。
ホープは紙にかかれているようなジンクスを信じて…?いや、まさか…
それでホープが、私なんかに手を出すような人間じゃないはずだ…
目をつむったまま、数秒間
こんな状況でなぜだか胸がやかましいくらいなりたてて締め付けられる
「……開けていいですよ」
私が恐る恐る開けると、首に今まで無かったネックレスが下がっていた
「……これは…?」
「誕生日おめでとうございます。ライトさん。…ライトさんが忘れても僕がおぼえていますよ」
ホープが笑うのでつられてなんだかほっこりとした気持ちになる
「実はそれ、ヴァニラさんとファングさんのクリスタルの一部で作ったんです」
よくみると、羽をモチーフにしたクリスタルの中に光る青とオレンジの光を確認できる
「この色は…」
「それは、パルスで最近発見された希少な宝石が含まれたクリスタルです。10年前クリスタルの調査中に偶然その2色が入っているのを発見してテンションがあがってしまって。ずっと保管してたんですけど…」
「そんな大切なものをもらっていいのか…?」
「ライトさんにプレゼントするためにずっと大切にしていたんです。受け取ってください」
「……あ…ありがとう」
いきなりの事であまり頭がついてこない
「もしかして、ジンクス通り、キスでもすると思いました?」
「………少し」
私がなんだか自分だけいらぬことを考えていたということを悟り、恥ずかしくてぷいっと顔を背けるとホープは笑った
「してもいいんですか?」
コイツ完全に私をからかっている
「…ふふっ……しませんよ、そんなことをしたらあなたは僕の事避けるのでしょう?」
それに、ライトさんの気持ちが大切ですから」
「…私は……幸せには……」
…なれないから
2/4