普段より早い時間に目を覚ましたのに、その頃には既に寝坊したのに近い時刻になっていた。
半ば跳ねる状態で扉に向かい、ドアノブを回す。
すると―
「…マ、マスター!?」
部屋の前に佇んでいたレイと鉢合わせた。
「あ、の、おはようございます」
「…ああ」
無表情だったレイに、僅かだが穏やかさが表れる。
シセラは微妙な変化に気付かぬまま、
「どうされましたか…?」
遅くなったことを咎められるのでは、と思いながら怖ず怖ずと質問した。
「…少し遅かったからな、」
レイの言葉を聞いて、やっぱり、と視線を落とす。
だが、レイはさらに言葉を続けた。
「まだ立てないんじゃないかと思ってな」
「………え?」
反射的に顔をあげると、クス、と不敵な笑みをレイが浮かべた。
「脚はもういいのか」
シセラの驚きを無視し、ぐるぐると巻いてある包帯に視線を移す。
「大丈夫です」
しっかりと返事をし、歩いてそれを証明しようとしたが、
「っ、あ」
調子に乗りすぎたのか、体が横に倒れそうになり、壁に慌てて手をつく。
「無理はするな」
すかさず、レイの冷ややかな視線と言葉。
「傷が開く」
「は…い」
安心させるどころか、逆効果だったらしい。
「今日は安静にしていろ」
こくん、と無言でシセラは頷く。この状態で仕事の事を口にすれば、またレイの機嫌が悪くなることをシセラは知っていた。
「…歩けるか?」
「…!」
続くレイの問いに、シセラは絶句し、ただ口をパクパクさせて固まる。
「…っ、ぇ、あ…」
長いことそうしていたが、やがて観念したように、静かに首を横に振った。
ふ、とレイが微かに笑みを漏らす音がして、優しくシセラの手を取る。
すぐに、体が浮く感じがし、足が床から離れた。
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