黒い簡素なワンピースから覗く、白い脚。

それを伝う、緋色の鮮血。


「血…」


一言、発したレイを、驚いた様子でシセラが見上げた。

「え…?」

戸惑いながらもレイの視線を追い、自分の脚についた縦長の傷を見つけて目を見開く。


「…あ」


足首まで流れた赤い血は、履いていた白いソックスに不思議な模様を描く。

気まずそうに言葉を詰まらせながら、シセラは、


「大丈夫…です。終わったらすぐに手当てしますから」


言うが、レイの厳しい視線はそんな弁解では許さなかった。

「もう作業はいい。来い」

シセラの体を支えていた腕を離す。すると、


「…っぁ」


小さな呻き声をあげてシセラはその場にへたり込んだ。

「…」

必死に立ち上がろうとするが、痛みのせいで力が入らず何度も失敗を繰り返す。

あまりにも滑稽なその様子を、レイは冷ややかに眺めていたがやがて、

「手を貸せ」

シセラの伸ばした腕を掴み、再び立ち上がらせると、更にそこから、なるべく傷ついた脚に触れないように抱えあげる。


「っ、マスター!?」


思いもよらないことに、シセラが悲鳴に近い声をあげ、レイの腕の中で抵抗する。

「暴れるな」

レイに諭され、一応は大人しくなるものの、まだ悲鳴は止まない。


「は、放してくださいっ」


たがレイはそれすら無視し、シセラをラウンジに連れて行く。

ソファに座らせるようにシセラを降ろすと、レイはどこからかガーゼと包帯を持ってきて向き合う位置に座った。


「マスター、自分でできますからっ…」


シセラの言葉も、


「自分で手当てするよりも早いだろう」


一蹴される。


「でも、魔法で治せますから…」


なおも食い下がると、レイは意地悪げな笑みを見せシセラを見つめた。

久しぶりに見る、あの笑み。

なんだか妖しい表情に飲み込まれそうな気分になった。

「なら、やってみろ」

促され、シセラは意識を集中させるために静かに目を閉じる。


「…」


天界にいたころは、いつも魔法で簡単な怪我を癒していた。

しかし、


「…あれ…?」



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