玄関が、遠くに見えた。
とりあえず今日はそこに運べばいいと言われていた。一秒でも早くこの作業を終わらせたくて、知らず知らずのうちに早足になる。
すると、目的地の少し手前にある小部屋からレイが出てきた。
腕中に、書類を埋めるために利用したであろう本を数冊抱えている。
それはシセラが普段やることなのだが、気を遣って自分でやっているのだ。
「あ、マスター、それなら私が…」
机を投げ出すように置くと、慌ててレイのもとに駆け寄る。
そして―
「―きゃあっ!」
ガッターン!
シセラの悲鳴と、机が倒れる音が同時に廊下に響いた。
「―!」
遅れてレイが本を床に置く―寧ろ、落とす―音がし、それからシセラに急いで近寄る。
テーブルの脚に躓いたらしいシセラは、倒れたそれの下敷きになっていた。
なんとか這い出し立ち上がると、その間に横たわるテーブルをレイが掴み、立たせる。
「大丈夫か?」
シセラを支えながらそう訪ねると、頷きが返ってくる。
「大丈夫です。あの、ごめんなさい…」
失態に俯くシセラ。肩が、微かに震えている。
レイは呆れ顔で溜め息とともに言葉を吐き出す。
「これからは、気をつけ―」
シセラの表情を窺おうとして落とした視線に、赤いモノが映った。
[←] | [→]
back