淡色の追憶
「マスター、お茶をいれましょうか?」
コンコン、と渇いたノックが廊下に響き、すぐ後に明るい声が続く。
待つこと数秒、厚い扉の向こうから
「ああ、頼む」
くぐもった返事がした。
数分後、シセラは白いトレイにティーポットとカップを乗せて、再びレイの書斎の前に戻ってきた。
ノックを繰り返すと、短い応答が聞こえる。
「失礼します」
書斎に入ると、デスクの上の山積みになった書類や本に囲まれた中にレイがいた。
一枚の紙を、眉間に皺をよせた難しい顔で眺めている。
シセラはその様子を見て、溜息ともつかない息を小さく吐き出すと、デスクの手前の低いテーブルにカップを置き準備を始めた。
レイが普段どのようなことをしているのかは知らない。
ただ、書類を片付けている、という程度の認識しかない。
外に出掛ける姿など、いつぞやの街道の時以外見たことがなかったので、自然とこの書類がレイの"仕事"なのだと考えていた。
「少し、休憩されませんか?」
カップに紅茶を注ぎ終えそう尋ねると、
「…そうだな」
手にしていた紙切れを放るようにデスクに置く。
その動作に合わせるように置いたティーカップに手を伸ばすと、レイは少量を口にした。
疲労が見える表情に、穏やかさが垣間見えた。
今日の紅茶は、口に合ったらしい。
ホッと安堵するとともに、シセラはふとあることを思い出した。
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