レイは椅子に座るとすぐ、目の前の料理に微かに表情を変えた。
「………」
「…これ、"シチュー"…です」
長い沈黙に耐えきれず、シセラが思わず口を開くとレイは静かに頷いた。
添えてあったスプーンを手に取ると、クリーム色の中に沈める。
レイがスプーンを口に運ぶ様子を、シセラは緊張した面持ちで見つめた。
一口。
そして、スプーンを再び深皿にうずめると、訝しげに顔をしかめた。
途端にシセラの表情が陰る。
「お口に合いませんでしたか?」
感情は面に出さずに、できるだけ平坦な口調で訪ねる。
質問を受けてレイは、
「今更料理の腕を訊くのか」
意地悪げな問いで返した。
「え、ぁ、いえ、あの…」
返事に戸惑い、口の中で形にならない言葉をもごもごと話す。
はっきり話せ、というレイの視線を受けて、シセラは顔を赤らめた。
「マスターの御機嫌を損ねるような事ばかりしてしまったので…」
情けなさから始まり、複雑な気持ちが絡まりあってまともに顔が見れない。
「その、お詫び…を…」
言い切らぬうちに言葉が途切れる。視線を落としたままじっとしていると、静寂しきった部屋に金属とガラスの当たる音が響いた。
驚いたシセラが少し潤んだ瞳を上げると、レイが再び食事を始めていた。
「また泣いているのか」
視線が合うと、呆れたように溜め息を吐く。
「違います…っ」
すぐさま否定し、シセラも夕食に手をつける。
「ありがとう」
ふと聞こえた言葉。
「…はい…!」
良かった、とシセラは心の中で嬉しげに言った。
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