「…お父様、お母様…」

シセラは少しずつ、思い出せる一番幼い時記憶から思い出を辿っていた。

幼くして事故で亡くなったシセラ両親。

王と女王だったが故、あまり一緒に過ごすことは無かったが、それでも僅かに残った記憶を懸命に脳内に再生する。

そしてヨハネの―

「…っ」

両親をなくして以来、親同然の存在だった、シセラが誰よりも慕っていた人物。

今までずっとシセラの傍を離れず、厳しく優しく、まるで本当の親のように育ててくれた。

意地の悪い義姉、リズの家族に引き取られた後の地獄のような時間も、ヨハネが居てこそやってこれたもの。

―それなのに…

「このまま、処刑されたら、お父様とお母様に会える…の……?」

か細く呟いたそれは、微かな、空気の漏れる音でしかなかった。

シセラは今はもう闇に包まれた牢獄の中で泣きつかれた目を閉じた。

子守歌がどこからか聞こえてくる。

オルゴールのような、それでも人が歌っているような、高く、暖かい、心の落ち着くメロディー。

夜空に流れるそれを聞くものは、誰もいなかった。

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