「準備できました、マスター」


シセラがパタパタと軽く走りながら廊下を歩いていたレイに声をかける。

「早いな」

立ち止まってシセラを見下ろすレイ。


「…?」


それに、僅かな違和感を感じたシセラは浮かんだ疑問を口にした。


「マスター…何処か雰囲気が…?」


何故だかわからないが、目の前の悪魔がレイだという気がしない。顔も、言動もどれもレイなのだが、何かが決定的に欠けていた。


「…」


特に答える様子もなく、しかしどこか含んだ笑みを見せると、レイは、

「行くぞ」

と再び歩き出した。


不可解に思いながらも、シセラは大人しく後をついていった。


レイが重そうな分厚い扉を開く。


開いた隙間から差し込む光。シセラが何ヶ月ぶりかに直接見た日光だった。


「…来い」


玄関から伸びるアスファルトの太い道を無視し、脇に続く細い方の路を進む。


細い路の両脇には、植物の植えられた跡が残っている。葉の付いていない木や、枯れたらしい花。

「…」

それを、シセラは寂しげな眼差しで見つめた。


「っ、あ」


余所見をしていたら、レイにぶつかりそうになる。

慌てて止まると同時に、レイがこちらを振り返った。

「…」

無言で、不意にシセラの両肩に手を置く。

「…っぇ、あの…っ」

突然の事にあたふたするシセラをよそに、レイは小さく何かを呟き始める。

「落ち着け。街に飛ぶぞ」

その言葉が克明に聞こえた直後、視界が真っ白に染まった。


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