"街に出る"―
シセラはその言葉を反芻する。
太陽が高く昇りきる、少し前。宣言通り昼前に仕事を終えたシセラはクローゼットを前にして耽っていた。
思えば、天界にいたときも城壁を超えて外に出たことはなかった。
緑の草木。無機質な城壁。
それと"監視役"の兵士。
それが、シセラの中にある"外"の思い出だった。
だけど今回は、自分が異端とされる魔界。
初めての外出には、些か心配事が多い、とシセラは胸中の不安を溜め息で表した。
「…あった」
ガサガサと服やドレスをかき分けていた手を止め、クローゼットから真っ白なドレスを引っ張り出した。
レイからもらった、あのドレス。
仕事で汚れるのが不安だからと、誕生日以来着ていなかったが、ようやく再び着ることができる。
そう思うと、重かった気持ちも、幾分か軽くなった。
ドレスを身に纏うと、鏡の前でくるりと回ってみせる。
裾がふわりと浮かぶのが何だか楽しい。
そして、突然表情を硬くすると、鏡の中の自分を真っ直ぐに見つめた。
青い瞳が互いを見つめ合う。
スゥ、と目を閉じると、視界が真っ暗になり、深呼吸をしてから、シセラはレイに教わったことを頭の中で復習した。
目を開く。
今度は、深紅の瞳が自分を見つめていた。
「できた…!」
変身魔法。
レイ曰く、悪魔の自分がやるよりも、天使のシセラが自身にする方が、体力の消耗が少ない、と言うことだった。
所詮は悪魔が使う魔法だから、シセラが持つ魔力と反発して、結局は体力が消耗されていくが、と言っていたのも思い出す。
しかし、微小な魔力しか持たない自分にも魔法が使えたのが、シセラは何より嬉しかった。
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