「お引き取り願う」
俯いたまま、発せられた声は、明らかに怒りが込められていた。
レイが顔をあげる。
目つきが刺すように鋭い。
「貴様の用件も、興味は無い。
どうせ毎度のものだろう。」
「…」
老人は考え込むように、長い時間、無言だった。
「…すまなかった」
そして、短く謝罪を述べると、シセラが立つドアに向かう。
「見送りをしてやれ」
レイがそう言って、シセラが慌てて老人を追いかける。
シセラがコートを渡すと、老人は柔和な表情を苦笑に変え、
「すまないね、君のご主人を怒らせてしまって。」
何と返せばいいかわからず、シセラも苦笑いを浮かべる。
「しばらくはあのままかもしれないが…
本当にすまないことをした」
「…いえ…」
シセラはようやくそう答えた。
「それじゃあ、失礼するよ」
老人は帽子を被り直すと、庭に立つ木々の中に消えていった。
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