「おや、お嬢さんのお出迎えとは珍しい」
シセラよりも僅かにだけ背丈が高い、老人が戸口に立っていた。
黒の翼に、赤い瞳。
レイ以外の悪魔を見たことが無かったシセラは、そこで数秒、固まってしまった。
「お嬢さん?」
「―あ、すいません」
シセラは、ハッとすると、コートを受け取り、老人を客間まで案内する。
そこで、レイは二つあるソファーの一つに座っていた。
「久しぶりだな」
いつもと変わらない口調。
「お久しぶりです」
老人がいきなり深々と礼をし、シセラを驚かした。
「…しかし、しばらくしないうちに随分とお変わりになりましたね」
老人は柔らかい微笑みを浮かべる。
「…何のことだ」
その温和な瞳に対して、厳しい瞳を向ける、レイ。
老人は、チラリ、とシセラに視線をやり、レイが溜め息を吐く。
「そいつは、ただの召使いだ」
だが、老人は微笑みを絶やさず、
「それでも、孤独を好んでいたあなたにしたら、随分な変化ですよ」
「…孤独…?」
思わず、シセラは、そう呟いていた。
「此の世界で知らない者はいない。
孤独を選び、若くして王座を棄て―」
バンッ
レイが強く握った両拳を、テーブルに叩きつけていた。
シセラはビクッと飛び上がる。
老人も押し黙り、しばらく、沈黙が流れた。
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