「あの、ごめんなさい…」
開口一番、シセラはそう言った。
「気にしてはいない。」
辞書のような分厚い本の後ろから、そんな返事が返ってきた。
「…が、このまま無かったことにして、甘やかすつもりもない。
遅刻分の仕事は後だ。
今からは書架の掃除をしろ。」
本が下ろされ、整った顔立ちが現れる。その瞳は無感情なまシセラを直視する。
「…はい」
シセラは俯いて答えた。
昨日は混乱状態であまりそこまで気が回らなかったが、改めて見ると、かなりの美青年だ。
「…あの、」
シセラはまた本の続きを読み始めた悪魔を呼びかける。
だが、聞こえてないのか、ただ無視をしているのか、返事がなかった。
「…マ、スター…」
小さく、呟くようにシセラが言うと、"マスター"は満足げに微笑み、顔を上げた。
「何だ」
いささか悔しそうな表情をし、シセラは、
「書架は…何処に?」
「昨日貴様がいた部屋だ」
短く答えると、もう行け、と言わんばかりに、再び、読書を始めた。
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