それまで穏やかだった空気に、不穏さが混じる。

「―なっ!」

麻耶の体が倒れ、緋色に抱えられる姿が目に映る。

周りと比べれば低いビルだが、間違いなく飛び降りるべきではない高さから、莎夜は躊躇なく飛び降りた。

できる限りの速さで走りながら、短剣を手に取る。

その頃にはもう公園の目前まで来ていた。

「思ったより早かったね」

大した驚きもなく、緋色は淡々とした口調で言う。

その腕の中には依然として麻耶が眠っていた。

「その子に何するつもり?」

剣をちらつかせて脅す。

緋色も麻耶の喉元に爪を当て、逆に莎夜に剣をしまうように促す。

「恐い顔だね。何もしてないよ。」

「…」

「…疑ってる?」

「…」

「…でも、危険だと知ってて彼女を預けた君も悪いよ」

「まだ、あなたの方が安全だと思ったからね」

「ご期待に添えたとは思うんだけどな」

残念だ、というような声。

「この子は君をおびき寄せるだけの餌役なんだから」

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