―、
…ギィ、
お寺の前の広場で、鉄の軋む音が響く。
莎夜がブランコに腰掛けていて、前後に小さく揺れると、その音が静寂に木霊する。
そしてもう一つ、
「…オイ」
静かな空気を揺らす声が。
明らかに不機嫌な口調。
確認するまでもなく、それは蒐のものだった。
「何やッてンだ、テメェは」
聞き慣れた、苛立ちを示す気だるそうな低い声。
「何も、やってないよ?」
莎夜が茶目っ気を含めて聞き返したが、それは蒐の機嫌を更に悪くしただけだった。
「人間なンかと関わってンじゃねェよ」
軽蔑を含めた視線。
本来、吸血鬼や死神など多くの種族は、ヒトと交わることを好まない。
それは、自分達の存在を知られると、狩られる可能性があるからだ。
だからこれだけは、どの種族でも禁忌とされていた。
もちろん、誰もが常識として知っていること。
莎夜とて例外ではないはずだった。
「…ごめんね?」
それでも莎夜は悪びれる様子もなくただ無邪気に笑った。
「付き合ってらんねェンだよ」
苛立たしげに吐き捨てる蒐。
「ンな事したら、余計狙われンじゃねーか。協力もクソもあるか」
事情を知らなかったといえ、半強制的に莎夜のお守り役をする事になった蒐。
たが、それを命じた莎夜は、自ら敵を呼び込んでいる。
蒐はそれが理解できず、矛盾する莎夜の行動が不愉快でたまらなかったのだ。
目を細めて、侮蔑を込めて莎夜を睨むと、蒐は背を向けた。
姿が一瞬で見えなくなり、気配がだんだんと遠ざかっていくのが察知できる。
蒐は、莎夜の前から姿を消した。
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