―それからしばらくたった、朝。

木造の屋根の、ボロボロになって空いた所々の隙間から差し込む光が夜明けを告げる。

蒐が出て行ってから、どれくらいの時間が過ぎたかはわからない。

けれど、もう何時間と経っていることは、夜が明けたことで把握できる。

それなのに、蒐はまだ帰ってきていなかった。

更に陽が昇り、辺りが暖かくなり始めた頃に、莎夜がようやく起き出した。

昨夜とは比べるまでもなく、体調は回復している。

たが、少し紅潮している頬が、まだ熱が治りきっていないことを示していた。

莎夜は壁に手をつきながら立つと、迷うことなく戸口へと向かった。

目指すは、町。
そこに彼はいるだろうと、感知した気配から何となく予想する。

森を出て、町に着いた頃には、もう陽は高くなっていった。

暗い森林の陰に慣れていた目が日光に晒され、莎夜は顔をしかめる。

日中だけあって、人も多く、道路も混み合うくらい車が走っていた。

しかし、誰一人として、歩道の中央を滑らかに歩く少女に気付こうとしない。

すれ違っても、脇を通り過ぎられても、誰として異質さを身に纏っている莎夜を見付ける者はいなかった。そこに、前方から走ってきくる、影。

それは、莎夜が気付く間も無く真っ直ぐぶつかってきた。

「わぁっ」

「あ…」

叫んだのは、小学生くらいの女の子。

俯いていた顔を上げると、慌てた表情が長い前髪の下から覗いた。

目が充血していて、頬に濡れた跡があるところを見ると、どうやら泣いているようだった。

同時に周囲の人々が、莎夜の存在に気付く。

だが、その反応はまるで彼女が急に現れたかのような驚きに近く、動揺が広がっていった。

それを無視するように、少女と目線を合わせるようにすぐ傍にしゃがみ込むと、莎夜は、

「…大丈夫?」

と、未だ泣き顔の少女に優しく微笑みかけた。

初めは緊張を見せていた少女は、その笑みに警戒心を解くと、小さく頷いた。

「どうしたの?」

更に莎夜が訊くと、

「…ユウが逃げたの。」

いじけた声が返ってくる。

「ユウ、って?」

「犬。…私の」

そこで、そっか、と短く答えると、

「それじゃあ、一緒に探してあげる。」

少女に手を差し伸べて、行こう、と誘う。すると、小さな手が握り返してきた。

そうして莎夜が立ち上がると、

「こっちを探して見よっか」

もと来た道を二人で歩き出した。

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