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「お姉さん、この後暇?俺とデートしない?」
午後9時をまわりそろそろ帰ろうとしていた時、後ろから突然声をかけられた。
ナンパかよっと面倒くさそうに後ろを振り向くと
「えっ!?」
そこには陽平が立っていた。
「陽平…なんで…」
「お前の仕事終わるの待ってたんだよ。」
そう言って道路を挟んで向い側にあるカフェを指差す。
「も、もしかしてずっといたのか!?」
その問いに悪戯が成功した子供のような顔をしてみせた陽平に、秋弘の胸になにか熱いものが込み上げてきた。
「陽平、あの…ごめんな。俺…っ!」
ずっと思っていた事を言葉にした瞬間、陽平の手に腕を引かれた。
「反省してるなら今日はその格好で俺とデートしろよ。」
「う……。はぁ、わかったよ。」
本来なら絶対に断るところだが、今回は自分に負があるとわかっていたし、それにーー。
(それに、この格好なら堂々と手繋げるもんな。)
実はずっと街ゆくカップルが仲良く手を繋いでいる様子を、秋弘は密かに羨ましいと思っていた。
普段の自分達にはなかなか出来ないことだから。
ウィッグをかぶりスカートを履いているため、傍目には秋弘が男だと気付く者はそういないだろう。
その事に勇気づけられるように、秋弘はそっと陽平の手に指を絡めた。
一瞬チラっと秋弘に視線を向けた陽平は、そっぽを向きながらも彼のその顔が赤く染まっている事を確認すると軽く笑いながらもその指を強く握り返してくれた。
「じゃあ、デートと行きますか。」