2
ーー3日前。
秋弘と彼の恋人である陽平は帰りに寄ったファミレスでイブの予定を立てていた。
今年はちょうど祭日で、ちょっと遠出でもしようかと話が進んだ時
「でも遠出するとデザート何処で食うんだって話だよな。」
「あぁ、ケーキ?別に無くてもいいんじゃねーの。」
秋弘の言葉に陽平は特に何も考えずそう返したのだが…
「はぁ!?お前なんだよそれ!」
突然激昂しだした秋弘の様子に陽平は思わず目を見張る。
「お前そんなにケーキ好きだっけ?」
クリスマスにケーキを食べる事が、彼にとってそれほど重要な事だとは知らなかった。
しかし…
「違うって!なんでケーキなんだよ、どら焼きだろ!羊羹だろ!?」
「………は?」
秋弘の言った言葉がいまいち理解できなかった。
「いやいや、クリスマスっていえば普通ケーキだろ!」
そう言ってからハッとある事に気がついた。
秋弘の家は和菓子屋だ。
もしかしたらケーキの代わりに和菓子を食べるのか?
もしやと思いそれを聞いてみると、案の定
「おう、そうだぜ。どら焼きとか羊羹にローソク立てるんだ!」
そのような答えが返ってきて、陽平は思わず脱力した。
「なんだよそれ…。じゃあせっかくだし今年はケーキにしてみようぜ。クラスの女子がこの前駅前のケーキ屋がうまいって言ってたし。」
陽平としては秋弘にも一般的なクリスマスを知ってもらいたいという思いからの提案だった。
しかし秋弘はその言葉に
「はぁ!?ケーキなんか嫌だ!絶対食わないからな。そんなに食いたきゃイブも女と過ごせばいいだろ!」
そう言って膨れたようにそっぽを向いてしまった。
その態度には流石に陽平も頭にきて
「……お前それ本気で言ってんのかよ?」
思わず低くなってしまった声に、秋弘の肩がビクっと揺れる。
「……だって陽平がケーキ食えとか言うし…。」
秋弘としては幼い頃から打倒ケーキと教えられ、クリスマスにケーキを食べる事は裏切り行為に等しいものがあった。
それに今までの習慣でクリスマスには和菓子と決まっている。
実際はこの季節になるとどうしてもケーキなどの洋菓子に売り上げを持っていかれてしまうため、売れ残った和菓子をクリスマスに食べているというだけなのだが。
「ケーキとか別にどうでもいいし。」
たかだかケーキでムキになり、他の女と過ごせという秋弘に苛立ちが募る。
「もういいわ。お前の言う通り女と過ごすから。」
そう言って伝票を片手にさっさと出て行ってしまった陽平に、秋弘も怒りが込み上げてきた。
「なんだよあいつ…。」
この時の秋弘はたいして気にしていなかった。
あんな事を言っていてもすぐに機嫌を直してくれると思っていたし、なんだかんだ言いながらも自分と過ごしてくれると信じていた。
しかしあれから電話もメールも来ることはなく、秋弘から連絡を取っても無視された。
そして運が悪いことに土日を挟んでいたため学校で会うこともなく、気付けばイブ当日に。
ただ部屋でぼーとするのも虚しく家の手伝いをすると名乗り出たものの、渡された衣装やウィッグに早くも後悔しつつ今に至る。
(なんで俺あんな事言っちゃったのかな…陽平の奴、ほんとに女と過ごしてたりして。)
陽平はモテる。
毎年クリスマスはデートに出かけていたのを思い出し、なんだか泣きたくなった。
(陽平の恋人は俺なのにっ…。)
この仕事が終わったら彼に会いに行こう。
そして謝って、自分がどれ程彼とのクリスマスを楽しみにしていたか伝えよう。
そう思うと俄然やる気が出て、秋弘は一生懸命声を張り上げた。