渉の言葉に俺は何も言葉が出なかった。

呆れたからではない。

本当に何も言葉が出てこなかった。ただ、身体が異常に熱くなっていくのだけは感じていた。

「ほ、ほらっ!だから言いたくなかったんだよ。こんな理由でカメラマンになりたいなんて、僕だってどうかしてるって思うけど、でも……っ!」

俺が何も言わないのを呆れられたと思ったのか、だんだん泣きそうになっていく渉を強く抱き寄せた。

「こんな理由とか言うなよ。」

「……え?」

「確かに他人から言わせれば怒られる理由かもしんねーけど、俺とお前にとっては立派な理由だろ?」

「せ、成也…」

渉の前髪をかきあげ、その額にそっとキスをする。
まるで誓いのキスのように。

「俺の全部お前にやるから、早く一人前になれよ?」

俺の言葉に真っ赤になりながら何度も頷いている渉に、やっといつもの渉だと感じた。

「……たく、渉のくせにこの俺に嫉妬させやがって。お前この一ヶ月俺がどんな気持ちでいたと思ってんだよ?」

「え、え?し、嫉妬?成也が!?」

何を驚いているのか目を見開いて俺を見上げてくる渉。


(まぁ俺も嫉妬なんて初めてしたけどな。)



だからそんな渉に俺も言ってやった。




「お前は俺だけ見てればいいんだよ。」





(その瞳の中にはいつも自分だけが写っていますように。)




Fin






(10/10)
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