ぬくもりはどこへ行った?▼赤葦京治
※死ネタ注意

大分長い間君のぬくもりを探している。どうして君は俺の隣にいないのだろう。

「今日も、ここで起きるのか」

最近毎日夢を見る。俺が誕生日の日で、君に祝ってもらいたくって、でもそれがなんとなく気まずく思ってて。そんな気持ちになってる夢。いつも電話がかかってきた時に目が覚める。夢の中でも、現実でも君のぬくもりは感じられない。
俺は記憶喪失にでもなってしまったのだろうか。どうしてきみがいなくなったのか、君と連絡がとれなくなってしまったのか、君がどこに住んでいたのか、君とどうやって出会ったのかまるで覚えていない。これはもしかして俺の妄想なんじゃないかとも思ってるけど、君の話を先輩や友達にしようとしたら必ず暗い顔をするからきっと俺の隣に君はいたんだ。
寒いこの時期になると君のぬくもりが恋しくなって、たまらなくて。君と俺は分かれてしまったのだろうか。出来ることなら、俺は君とやり直したい。
なにせ、明日は俺の誕生日だからだ。

「頭、痛いな」

寝よう。そして夢の続きを見よう。願わくば、電話の先まで。願わくば、君のぬくもりを取り戻せるヒントがありますように。

起きたら泣いていた。夢は、見れなかった。仕方ない、起きて準備をしよう。携帯を見ると結構なラインの件数が来ていて少し嬉しく思う。同時に隣をあたためてくれる君がいないことにさみしく思う。今日の夜こそ、夢で君のぬくもりを取り戻せるヒントが見つかりますように。

「さむ、」

外に出るとひやっとした空気が肌に突き刺さる。なぜか寒さで君のことを思い出した。



もう街はすでにクリスマスモードで、きらびやかなイルミネーションで彩られている。街にひとりは、少し浮くな。周りカップルばっかだし。隣が寒いことに違和感を覚える。君とも、ここに来たんだっけ。

「…あ」

見覚えがある、ここの通り。君ときたのかな。なぜか泣いている君が頭の中に流れ込んでくる。CMでよく流れる歌が、喧騒がやけにうるさく聞こえてくる。頭が、いたい、

“京治はもっと頑張らなくてもいいと思う”

ああ、あの日、俺と君は喧嘩をしたんだっけ。君はもう、死んでしまったんだっけ。今日は君の、命日だっけ。
寒くて、それでも君が隣にいてあたたかかった冬の日。俺の誕生日の前日にとても些細なことで喧嘩をしてしまった。俺が頑張りすぎていると。もっと肩の力を抜いてもいいと、優しさで君が言ってくれた言葉に切羽詰ってた俺は冷たく返してしまったんだ。

“俺は頑張りすぎてなんかいないし、余計なお世話”
“…なに、その言い方”
“余計な口出ししないで”
“何でそんなイライラしてるの? 今日の京治私嫌い”

君が気遣ってくれたのにイライラしてしまって、そんなこと言われなくても分かってるってなぜかその時の俺は子供っぽく突っぱねてしまったんだ。そこで、喧嘩してそのまま帰った。怒ってるような泣いているような顔が最期に見た君の顔だった。
翌日、俺の誕生日に、君が死んだと電話がきた。俺の家に向かってる最中に信号無視の車に轢かれたらしい。君のお母さんが教えてくれた。

「…なまえ、」

泣いても君は帰ってこない。悔いてもあの日は帰ってこない。どんなに君を今、愛したって君のぬくもりは帰ってはこない。


20151205

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