そんな、反則▽孤爪研磨
私は、隣の席の孤爪くんと目が合ったことがない。
孤爪くんの目は授業は黒板、休み時間は携帯、と決まっていて隣の席にもかかわらず1度も目が合わない、いや、故意に合わせないようにしているのかな。孤爪くんと1年の頃から同じクラスのタエちゃんはやっぱり1度も目が合ったことないって。話したことがあっても目が合わないし、言葉を詰まるらせるらしいし、きっと人見知りなのだと思う。それにしても極度だなあ。ちょっと気になるから、話してみたいんだけどなあ。
なぜ気になるって、まず、隣の席になって気づいたこと。孤爪くんはめったに板書をとらない。たまに、サラッと書いて黒板に目を戻す。そういえば、孤爪くんが授業中に寝てるところを見たことがない。もしかして授業で全て覚えてるのかな…なんて。でも孤爪くんは確か頭が良かったはずだ。いわゆる天才、というやつなのだろうか。羨ましいなあ。 それに、運動神経も良いらしい。良いらしい、というのは彼がバレー部に入っているおいう、そこからの推測に過ぎないからだ。スポーツ系の部活に入っているのに騒がしくないなんて珍しい、というのも私がきになっている理由かもしれない。ああ、それなら去年同じクラスだった福永くんもそうかもしれないけど。でも彼は割と友好的だからちょっと違うかもしれない。
ああ、孤爪くんと話してみたい。目を合わせてみたい。孤爪くんのことをもっと、知ってみたい。



「あー、きょうも話しかけられなかった…」

自分が情けないし、もう2年生も半分が過ぎた。もしかしたら孤爪くんと同じクラスなのはこれが最後かもしれないしもう話せないまま終わるかもしれない。隣の席になってから気になるなんて遅すぎた。少しの後悔をしながら期限内に出せず、居残りになった数学の課題を片付ける。こんなものわかるはずがないでしょ。

「うっ寒っ」

ブルッと身震いする。11月かあ。もう寒いなあ、帰りたい。暗いし。最後の問題を解き終えて、筆記用具をふでばこに仕舞い、ふでばこもパンパンのリュックに押し込んだ。マフラーとコートを引っ掴んで帰る支度をする。ああ、やっと帰れる。もう時計の長針は5時と6時のあいだを指している。もう5時半かあ。早く帰ろう、と思ったその時ガラッと教室の扉が引かれる。

「え、」
「あ…」

扉を引いたのはさっきまで思考の殆どを占めていた孤爪くんだった。孤爪くんは部活でかいたであろう汗をしたたらせながら呆然としている。あ、目、はちみつ色だ。
呆然としているのは孤爪くんだけでなく、私もで。先に動き出したのは孤爪くんだった。
そっと教室の中に入ってきて私の近くに来る。忘れ物とかしたのかな。孤爪くんは目的のものを見つけたようでこれまたそっと私から遠ざかって教室から出て、顔だけこっちを向けて。

「…みょうじさん、帰り気をつけて」


20151130

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