弱そうで弱い子▽国見英
朝が弱い、と友人に言うとやっぱりな。国見朝が弱そうだよな。と言われることが嫌だった。そんなに俺は眠そうな、朝布団にこもってそうな顔をしているのか? と文句をつけてやりたいがそれは大当たりなのでいつも正攻法の反論は突きつけてやれない。俺は朝が弱い。低血圧だ。だから、いつも小刻みにアラームを鳴らして起きれるように準備する。そんな俺が久々に違う音で起きた。電話の音だ。アラームもならないような早い時間から鳴ってたから無視しようかと思ったけど、電話は俺が中学校の時から気になってるなまえからだったから出てしまった。寝る時間を惜しんでまでとか女子かよ俺。

「…はい」
『ああっ英やっと出た!外見た!?』
「…は?外?」

電話に出てみると急いだ様子で、慌てて温い布団から出る。うわ、さっむ、まだ11月だろ…。そう思いながらカーテンをシャッと開けてみると。

「うっ…わ、嘘だろ…」
『嘘じゃないし、早く準備しなよ!布団で二度寝しないように』

バスもう遅れ始めてるからね、朝練ちゃんと間に合うように来るんだよ。
俺に現実を押し付けて男子バレー部のマネージャーでもあるなまえは用件が終わったと言わんばかりに電話を切った。ちょっと期待してみても、なまえはちっとも意識してくれてなんてないし、部員のひとりとしか思われてないし…思えば思うほど不毛な片想いだとため息をつく。なまえからあんな電話がきて出てしまったからには朝練に遅れるわけには行かない。もぞもぞと布団から這い出て朝の支度をはじめることにした。



「英!おはよう、ちゃんと間に合ったね」
「そりゃね…」

朝から電話しかけてくるんだ、間に合わないわけにいかないし、それが当然だし。なのになまえはえらいえらい、と顔をほころばせるものだから俺は本当に偉いことをしたのだと天狗になってしまう。そんな自分に不利益に働かなかっただけなのに。

「…なまえ、金田一は?」
「え、まだ来てないなんて珍しいね」

いつも朝練が始まる30分前にはいる金田一が5分なのにも関わらずいない。俺ならもういつも滑り込みだから特に気にはされないが金田一のことだからと先輩も皆不思議そうな顔をしている。あ、もしかして

「なまえさあ、金田一に朝電話した?」
「いや、してないけど……あ」

この大雪を知らない金田一は朝の電話もなくいつも通りに家を出たに違いない。そしてバスが遅延しててラインで先輩方に知らせたのに既読がひとつもついてないことに焦っているに違いない。
携帯を取り出してバレー部のラインを見る。あ、やっぱり。

「金田一、バス遅れてるって」
「うわあごめん勇太郎…」

朝が弱くて良かったかもしれない。朝が弱そうに見えて良かったかもしれない。俺が金田一のように朝弱そうに見えなかったら、きっと、なまえからの朝の電話はなかったのだから。すこし、顔がにやけてしまったのは多すぎる初雪のせいにしてしまおう。


20151125

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