ファーストキスも塩辛かった▼赤葦京治
※赤葦といとこ同士設定


私と京治はいとこ同士だ。血の繋がった。私の母方の姉の子供で、年はいっしょ。進学先が私の住んでるところよりも遠い東京の学校に決まったために今はおばさんの、京治の家に身を置かせてもらっている。
「起きて、なまえ」
「…もう朝なの?」
「朝だよ」
朝練あるから先いくけど朝ごはん母さんが用意してるからちゃんと食べなよ
そう言って京治は私の前髪をさらりと撫でて部屋を出る。
私たちにはひみつがある。
おばさんにも、お母さんにも知られていない。知られてはいけないひみつ。

わたしと京治は好きどうしだということ。



法律上いとこ同士の結婚はダメなことではないし、過去の総理大臣でいとこ同士で結婚してる人だっている。それでも私たちが親に何も言えない理由は私たちが親にとってまだまだ子どもであることだ。子どもの戯れ言だとそれだけでかたをつけては欲しくないし、言ったところでもっと他に目を向けなさいと諭されるだけだからだ。
だから私たちはひっそりと愛を伝えあう。いつかお母さんが言っていた。「いとこ同士で結婚だって。なんて世間体の悪い。」言えない。でも溢れ出す情熱は抑えられない。そっと親がいないところで手をあわさてみたり口づけをしてみたり。ダメなことなのかもしれない。京治の家にとっては私は預かりものであるからこのことがバレたら京治がただでは済まないのかもしれない。でも、あまりに京治が優しく笑うから。あまりに愛おしそうに名前を呼ぶから私はその愛に応えてしまう。なんで私たちは血がつながっているのだろう。なんで私たちはこんな窮屈な時代に生まれてしまったのだろう。



今日の朝ごはんはスクランブルエッグとトースト、アボカドサラダとオレンジジュースだ。少し冷めたスクランブルエッグをほおばって、京治はこの味で育ったのだと胸を苦しくさせる。きっと私と同じくらいの年の子達はお母さんやともだちに恋バナをして盛り上がったりするのだろう。愚痴を言ったりするのだろう。してみたいと、そんな彼女たちを羨んだときもあった。けれど京治以上に好きになれる人も、京治以上にときめく人もいなかった。ああ、やはり京治しかありえないのだ、私には。
「ごちそうさまです」
「なまえちゃん、食器片付けてくれてありがとう」
おばさん、ごめんなさい。あなたを悲しませてしまうかもしれません。



「なまえ、お風呂」
「ありがとう、いただくね」
京治が私の部屋に入って次にお風呂に入っていいことを伝える。部屋に入ってきた京治は後ろ手にドアを閉めて熱っぽい目で私を見つめる。
目はそらさない。
そっと手に触れて互いに握りしめあう。京治、お風呂上がりだから肌が柔らかくて、あったかい。
手をほどかれ、片手で両目を隠される。柔らかいしめった唇が私のリップクリームで保湿された唇と合わさる。だんだんと、塩辛くなる。私たちはいつも涙をこぼしながらキスをかわす。塩辛くてたまらない。
私たちはとんでもなくしあわせだけど、とんでなもなくふしあわせだ。


20151101


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