仕置きと我慢は愛のうち


関ヶ原の地で、一人の女性が奮闘した。それは西軍、立花ぎん千代でも東軍の稲姫でもない。お仕置きと称し、小早川秀秋を味方とし東西関係なく制裁を加えたのは秀吉の未亡人、高台院…ねねである。


「もう、いい?天下は皆で守るものなの。うちの人が目指してた天下は?三成」

「皆が…笑って暮らせる世です」

「そうだよ。今、皆が笑ってる?」


関ヶ原で戦をしていた武将は皆、今は地面に座らされねねの説教を聞いていた。いや、聞かねば力で捩伏せるねねのお説教は強制的に聞かされているのである。


「もう、三成と清正と正則がちゃんと仲良くしてないから狸に付け込まれるんだよ?ちゃんと聞いてるの?」


集中的にねねの説教を受けるのは、子飼いの将で…延々と続いた説教に関ヶ原は夕闇に煌々と篝火が焚かれていた。説教を終えたねねの命令で、日ノ本中の大名が大坂に集まる事になったのである。

ねねからしてみれば、戦に関わった者は皆同罪で大坂にて個別で説教をしないとっと母心で言っているのだから諸将は従うしかないのである。




「三成!」


関ヶ原から数日、秀吉も生きていたら驚いたであろう早さで大坂城には各地から大名が集まり大坂城に留まるねねに大広間で説教を聞かされた。ねねが、居るだけで豊臣を二分していた子飼いは纏まり、時勢も豊臣に戻った今、戦をしようと思う大名はいなく、秀吉が遺した通りの役職で勤めだし大坂で政が機能しだしていた。

三成が大坂で執務をする為の部屋に兼続が訪れたのは、盛大なお説教から数日が経過してからの事であった。


「兼続?」

「ようやく、時間が取れ景勝様の御側を離れても問題がなくなったからな。上杉は五大老の一つだからな、戦後処理の政務で景勝様の采配を伝える仲介におわれなかなか、お前の所に来れなかったが改めてお前が無事で安心したぞ!」

「開戦し、一刻もせずにおねね様が介入されたのだ。被害の大半は、おねね様のお仕置きだ」

「はっはは、おねね様には誰も敵わないという事か。では、お前の部屋に普段見慣れない顔があるのもおねね様からのお仕置きか?」


兼続が三成の部屋を訪れる前に、先客がいた。否、正しくは盛大なお説教の後からねねから三人は喧嘩ばっかりだからお仕置きと言われ、此処数日は共に過ごしていた。政務量から石田屋敷で。


「あやつらとて、政務があるからもう解放して欲しいものだが…久しくこうして時を共にしていなかったからな。何やら、くすぐったいのだよ」

「そうか…三成、島殿は……」


そわそわと室内を見渡す兼続のらしくない様子に、三成は小さく笑みながらも直ぐに表情を引き締めると真剣な面持ちで口を開いた。


「すまぬ。左近は、銃撃を受け屋敷で療養中なのだ。傷は深くなかったが、大事をとらせてるのだよ。会いたいのであれば、屋敷に行き勝手に入ってくれて構わぬ」


三成の言葉を聞いた兼続は、左近が心配で慌ててその場から去った。目指すのは勿論、三成の屋敷である。

屋敷の入口に門番の姿はあったものの、兼続の姿に三成様のご友人だからいいかと暢気さある石田家臣は兵も暢気者だった。


「左近!」

「…あぁ、兼続さんですかい。驚かせないでくださいよ。殿に聞いたんでしょう?かすり傷ですよ。ま、殿の手伝いに清正さんだ、正則さんがいて休んでろって言われただけなんですけどね」


どたばたと廊下を走り、門番に聞いた左近がいる部屋の障子戸を開けた先に悠々と座って書を読む姿が兼続の目に映った。


「かすり傷で休んでろっだなんて暇で仕方なかったんですけど、兼続さんがこうして来てくれるなら良いもんですかね」

「元気…そうだな」

「えぇ、まあ。見ます?左近の勲章って、まだ包帯巻かれてますがね」


着流しの前を開けさせた左近の腹には、包帯が巻かれてはいたが左近自体は元気そのものであった。その姿に安心する兼続ではあったが、三成がしたらしくもない悪戯にまんまとのせられたのだとまた気づかされるのだった。


「三成が不義だ。私は本気で左近をあんじたのだぞ」

「まあ、まあ。殿は正則さんに仕事を増やされて悪戯したい病に罹ってんで、それより…俺は今、腕が寂しいんですよ。温もりが欲しくって、ね。兼続さんの」


左近は兼続を軽く手招くと、その両腕で兼続を包む様に抱きしめた。


「それは、困った病だな。だが、私もいま左は近の温もりの方が不義を正すよりも優先したい」

「久々ですね、兼続さん」

「閨事は駄目だぞ。怪我が完治したら、私に会いに来てくれ」

「久しぶりなのに我慢しろって…いいですよ、兼続さんも我慢してくれてるんでしょうからね。完治したらまた、この腕で貴方を搦め捕りに行きますよ」






それから数ヶ月後、会津に春が訪れる頃…左近と兼続が交わした約束が果たされたかは……二人だけの秘密だとか。









タイトルは私が勝手につけました(笑)


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