疑似彼氏

俺達"暁"は犯罪者である。それも各国で有名な程、凶悪。なぜ有名になるのか?答えは簡単、やり方が派手なのだ。誰の目にもつくような行動を敢えて好むのかよくわからないが、とにかく地味でスリルの無いやり方を嫌う輩が多いことは確かである。
地味なことは、嫌いなのだ。

「簡潔に言えよ…うん」

とまあ回りくどいが真実を語り続ける俺に、制止の声をかけるのは相方のデイダラだ。
俺が勝手に奴の部屋に進入したことが気に入らなかったのか、奴は終始しかめっ面である。

「大切なことだからしっかり一から話してやってんだろうが」

そう俺が喋っても奴は首をボリボリ、音を立てて掻く。不真面目な態度だ。
若者は長話に耐久できる力を失って苛立っているのだろうか。

「オイラは仮眠をとりたいんだ。出ていけ、うん」

なにやら若者は猫背になってベッドに腰掛け、扉の前に立つ俺を睨んでいる。目付きが悪いのは眠いためか、生まれつきか。後者である方が望ましい。馬鹿め。

「なんのために俺がてめぇの粘土臭ぇ部屋に来たか教えてやる」

「だから言うなら早く言え。うん」

奴は「聞きます」という返事をしておきながら、身体をベッドに横たえ寝る姿勢を作り始めた。俺は扉の位置からベッドの傍へ速やかに移動し、奴の右耳を力強く引いた。「いてっ」などと身体を跳ねさせる相手に構わず、耳に口を寄せた。


「女のふりして潜入捜査しろ」


俺が台詞を言い切った瞬間に奴は顔をこちらに向けた。意外に瞳は眠そうなままだった。

「……日時は明日だ」

「冗談」

互いに鼻がぶつかりそうな距離で、会話は続く。

「相手が雑魚じゃないんでな。派手に目立って動かない方が利口なんだよ」

奴は再び顔を壁に向け、耳を手で塞ぎだした。しかしそのような動作になんら意味は無いことを奴は知っているだろう。恐らく現実逃避に近い。

「お前しかいないんだ、デイダラ」

俺は激励のような意味不明な言葉――当然だが棒読み――を送り、奴の耳を塞ぐ手を掴んだ。手はされるがままに、デイダラは喋る。

「小南にしろよ。顔があんまり割れてないだろ。うん」

「アジトから離れられないらしい」

「…つか、派手に動くとか以前に、オイラの十八番で何もかも塵に…」

「だから殺すんじゃなく話を聞くだけだ」

奴は逃げ道を探すことに必死らしかった。だが残念、俺はその逃げ道が無いということをあらかじめ調べた上で、デイダラを使うことにしたのだ。今更奴が何を提案しようと無駄な話。

「目的地は木の葉隠れの里の付近。傍までは俺も行く」

「準備しておけ」と言い俺は文句を言われる前にデイダラの部屋を出た。奴はベッドから動かず、追っては来なかった。


―――――――――――――――


翌日、返事もしなかった相方は俺より早くアジトの出口にいた。しかも普段の奴とは全く異なる風貌で。

「…………」

それはヒルコ無しで歩いて来た俺に、それなりの衝撃を与えた。ヒルコでは表現できない顔の変化が本体の俺にはあるわけである。…つまりはびっくりした表情になったのだ。
デイダラは俺に気づくと直ぐさま鋭い眼を向けてきた。迫力は正直普段よりある。
奴は長い金の髪を頭の横の位置で団子にしており、きらびやかな髪飾りも施していた。女物の鮮やかな着物を纏い、化粧も完璧。濃い目元が更に濃くなっている。

「…………満足か?…うん」

可愛らしい姿とは真逆の低い声が発せられ、それは怒気しか含まれていなかった。奴からおぞましい色のチャクラが放出されている。

「…小南がやったのか?」

怒りが爆発しそうな相方を見ながら俺は推理する。この組織内で化粧ができる者など小南しかいない。大方面白がってデイダラを人形代わりに遊んだのだろう。捜査には加わらないくせに面白そうなところだけは参加する…ずる賢い女だ。
俺の問いに小さく頷く相方に、それなりに同情した。まさかここまでなるとは思わなかったので。

「オイラが何をしたっつーんだ…」

奴は独りでぶつぶつ呟きだした。それを俺は黙って見つめた。
声が低いままということは、変化の術はしていないのか。男の身体のまま着物を着て化粧をしているのか――という疑問を抱く俺は、見た目だけでは今のデイダラを男か女か判断できないのである――。

「お前凄いな」

じっくり鑑賞し、ただただ心の声を洩らした。するとデイダラは険しい表情のまま「あん?」とガンをつけてくる。ガラが悪すぎである。

「まぁいい、目的地に向かう」

こんな格好の奴と並んで歩くなど馬鹿みたいだが、本人は今はただのか弱い少女なのだ、無事に送り届けなければ。
俺はデイダラの少し前を歩き、奴に離れないよう促した。すると奴は鼻で笑った。

「心配ご無用だぜ旦那」

そしてそう言いながら羽織を捲り上げた。見ると中の着物の腰部分にしっかりといつもの鞄がぶら下がっている。例によって起爆粘土がつまっているのだ。

「末恐ろしい奴…。おい、素振りは格好と合わせろよ」

「は?」

俺は奴の腕を軽く叩いた。奴は眉間に皺を寄せ、少し考えるように頭を傾けた。
そして閃いた顔を作り、おもむろに俺の首に両腕を回す…。

「こうすりゃ女らしいか…?うん」

奴はくすりと笑って言う。

「俺を誘惑しろとは言ってない」

「誘惑できてんなら成功だな、うん」

冷めた眼でこちらを見つめ、口角を上げ。奴は完全に俺を挑発している。

良い度胸だ。

俺は奴の後頭部を鷲掴むと、驚きの表情に変わる奴を気にせず唇をぶつけた。かなり力任せに舌も入れた。

「ッ、んむ」

とりあえず奴の息が上がるまで好き勝手し、唇を離した途端に頭を殴られた。痛むのはむこうの拳のみだが。

「何やってんだてめぇ!発情するな!うん!」

怒鳴る相手に俺は舌打ちする。

「甘いな。これから捜査の対象になる奴等だって似たようなこと仕掛けてくるぞ」

「起爆粘土持ってるって言ったろうが…うん?」

俺達はアジトを出てから五百メートル程しか進んでいなかったが、すっかり立ち止まっていた。

「そいつ等がいる場所は木の葉の里の本当にすぐ傍だ…爆発なんざ見つかるに決まってる!」

「なんなら木の葉もアートさせてやろうか!うん!」

「木の葉の奴等にその無様な格好を公開するのか?デイ子ちゃん」

奴の握られた拳がだらしなく下げられた。殺気の失せたデイダラはのろのろと歩き出す。

ふ。勝った。

俺は手が出るのも早いが、他人を口車に乗せるのが得意なのだ。言い合いで負ける気は無い。

「……」


しかし勝ったは良いが奴の気分が暗くなるだけ。
肩を落とし俯くデイダラに、声をかける。

「掘られそうになったら俺を呼べ」

「な?」と一押しすると、奴がこちらを睨んだ。

「もっとまともな言葉は出てこねぇのか…うん」

逆効果か。

「だが掘られるかもしれねぇのは事実だろ」

「事実か」

「事実だ」

奴の顔が青くなる。

「だから俺を呼べっつってんだ」

「…アンタはオイラの彼氏か?うん」

これまた面白いことを言う。
まぁそれでも良いか。

「いいか、しっかり聞き出して来いよ。デイ子」


絶対に襲われることは無いからな。
俺がいる。


「…えへ。わたしがんばるね。」

「棒読みだぞ」



何でオイラが知らん男に愛想振り撒かなきゃなんねぇんだよ!

などと考えるデイダラはしかし、既にやけくそだった。

「助けに来なかったら爆破すんぞ…うん」




fin.


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