我家
「お前達を呼んだのは他でもない。全員で成し遂げて貰いたい任務がある」
日の光さえ届かぬ森の中、リーダーであるペインの目の前には何とも異才を放つ国際級犯罪者達がずらりと並んでいる。
「各々、俺が与えた任務の最中の者達もいるだろうが、ひとまず力を貸して欲しい。緊急事態だ。」
そう言ってペインが指差したところは、深い山を切り開いた場所に聳え立つ巨大な岩石だった。
断崖絶壁に嵌め込まれた歪な球体のそれは、太古から伝わる神岩のような重厚感を漂わせ御神木達に囲まれている。
泥「それをどうしろってんだ、うん。」
ぺ「お前達でこの大岩を破壊して欲しい」
泥「 は?それだけの為にオイラ達を呼んだのか?」
ペインに刺さる複数の視線が急に冷たくなった。
ぺ「話を最後まで聞け。これは全員でやらなければ意味の無い事なのだ。そして頼んでいる理由はもう一つ、俺一人では無理だったからだ…」
ペインの声色が一際低くなる。
蠍「…で、その岩を壊して何をするつもりなんだ」
事の次第を知るべく、ヒルコ姿のサソリが珍しく口を開いた。
ぺ「あぁ、それなんだが…」
全員が二の句を待つ。
ぺ「ここに我々暁が拠点とするマイホームを造るのだ…!!もちろん個室、共同の食堂、風呂、厠の設備も付けるつもりだ。今までのように、各地のアジトを使うシステムから一ヵ所拠点型に切り替え、皆が一緒に過ごせる我が家的空間を設けたいと思う。」
泥「それこそ勝手に自分でやれよ、うん!」
角「どこにそんな金がある。そしてそれは主に誰が稼いでいると思っている」
飛「えー!いいじゃねぇかマイホーム!俺の儀式用の部屋も造ってくれんのか?出来れば赤壁で!掃除面倒いから」
鮫「わざわざ我々の力を借りるまでもないのでは?貴方一人でも充分でしょうに」
泥「神羅なんとかでな」
ぺ「人の奥義を略すなデイダラ」
鼬「だが、一人では無理というのは?」
イタチが話を戻した。
ぺ「実はもう既に試してみたんだが俺の術ではどうやら無効のようなのだ」
泥「えぇえ、リーダーなのにか!?だったらオイラ達でも無理だろ、うん?」
蠍「あ?たかが岩の破壊だろうが。何が無理なんだ」
角「貴様のやる気の問題だろう」
ぺ「そういう事では無い。これは俺以外でないと破壊できないのだ。この岩は所謂神岩だからな、神である俺の力では互いに相殺されてしまうようだ」
泥「自分で神とか言うな」
飛「へっ、神は俺だろ?」
角「飛段…貴様は悪趣味な死神だ。生きているのかさえ不確かだ」
小「そもそも…皆が同一の場所で群れる必要があるのか、ペイン」
いつもはペインに付き従う小南も、今回は何故か理由を聞かされていないようだ。
ぺ「まぁ、目的は多数あるが…やはり一番はコミュニケーションを円滑に取る為だ」
通常の報連相は遠隔通信で行っている。わざわざ同じ空間に帰ってくる意味なんかあるのだろうか。誰もがそんな疑問を浮かべた。
ぺ「はぁ…全く、お前達は何も解っていない。我々はいずれこの世界にとって脅威の組織となる。当然、立ちはだかる敵も強靭な奴等になってくるだろう。暁は二人一組で行動しているが、場合によってはそれ以上の戦力が必要になる…そんな時、互いに相方しか知らないようではいざ戦闘となった時にどう連携を取る。メンバーである以上、情報の共有や戦闘スタイル等を知っておく必要があると思わないか」
鮫「なるほど…要は生活を共にしてメンバーの素性を知ることが目的な訳ですね」
鼬「確かに…この組織に長く属してはいるが、他メンバーの詳細は殆ど知らない。知る必要も無かったがな…」
角「だが、俺達のように常に広範囲に渡り移動している場合はいちいち此処に戻ってくるのは無理だ」
飛「だよなぁ、それでなくても毎回くっせぇ換金所も回らなきゃならねぇからよぉ!日が暮れちまうぜェ!」
角「飛段煩いぞ…貴様は野宿を楽しんでいるだろう」
ぺ「…お前達のような長期任務の場合は今まで通り支社を使えばいい。だが任務の無い時はこれからは本社で待機するようにしてくれ」
泥「何さらっとアジトを分社化してんだよ。しかも嬉しさを隠そうとすんな、うん。」
小「秘書は私か?ペイン」
ぺ「当たり前だ」
蠍「なら俺は人事部長だ」
泥「何言ってやがんだ旦那、悪ノリすんな。因みにオイラは企画本部長だ、うん。」
鼬「そうか、仕方ない…ならばその社長は俺が引き受けよう」
鮫「え、イタチさんて意外に欲深ですね」
鼬「何か言ったか…現場監督」
鮫「私は社員にすら入れて貰えないんですか?」
鼬「社員というのは最低限人間でなければならない」
鮫「……」
絶「なんか急に皆楽しそうになってきたね」
「単純ナダケダロ…バカ共ガ」
今まで何処にいたのかゼツがその場の様子を見て呟いた。
ぺ「盛り上がっているところ悪いが、当然社長はこの俺だ。悪いなイタチ、神の導きである以上これ─泥「くどい、うん」
最年少の少年に叱られたリーダーは咳払いをしてから話を戻した。
ぺ「とにかく、本拠地となるアジトだ。此処ならまず敵に気付かれるような事はないが、念の為強力な結界も張る。この大岩の奥の空間を使う予定だから地形は変えず、ここだけ破壊してくれ」
そう言われメンバーは一斉に目の前に聳え立つ大岩を見上げた。
ぺ「期限は明朝だ。俺は必要な備品を調達しに行く……悪いがゼツ、手伝ってくれないか。因みに小南は一緒に家具を選んでくれ。インテリアはお前に任せよう。」
小「わかった。秘書としての初任務だな」
角「ちょっと待て。頼んでおいて此処を離れる気か…ならば手間賃を払え。そして秘書の仕事とは何だ、都合良く俺達に押し付けるな」
珍しく角都が饒舌に喋り出す。
損得勘定においては暁一であるこのご老人は無駄な労働を嫌う。
ぺ「何を言ってる。これも任務だと説明した筈だ。一刻も早く此処をマイスウィートホームにする為に適切な人選をしたまで…角都、それともお前の力では無理だと言うのか」
角「そんな訳なかろう、さっさと行け。明朝と言わず数刻で終わらせる」
がめつい角都も武士のプライドには勝てないようだった。
そのやりとりを冷めた目で見ていたメンバー。
ぺ「では頼んだぞ。この大岩は常識が通用しない。大いに頭を使って成し遂げてくれ」
そう言ってペイン ゼツ 小南はその場から姿を消した。
鳥の囀りと風の抜ける音だけが辺りを包む。
「「…………」」
鮫「まぁ、どうせやらねばならないのですから早く片づけちゃいましょう」
鼬「そうだな…」
蠍「おい、てめぇの粘土で爆発させりゃ一発で壊せんだろ…」
鮫「そうですねぇ、これは破壊力がある攻撃の方が効率的ですね」
泥「へっ、言われなくてもそのつもりだ、うん」
既に両の掌で咀嚼させていたデイダラは鳥に乗り大岩の眼前まで浮上する。
蠍「下がれ」
「──喝!!」
けたたましい轟音と爆風が襲いかかる。
鳥達が一斉に空へ舞い上がる。
泥「ハッ、どうだいオイラの芸術は…!アートだな、うん…」
蠍「……デイダラてめぇ遊んでんじゃねぇぞ…」
突如下からサソリの怒気を含んだ声が投げられる。
泥「うん…?」
漸く自分の目の前の煙が晴れるとそこには巨大な大岩が変わらぬ姿で現れた。
泥「ありゃ?」
ヒビ一つすら入っていない。
(見た目以上に堅いのか…?威力が足りなかったか?)
鳥に乗ったままデイダラは岩肌に触れ硬度を確かめる。しかし感触はどこにでもある岩のそれだ。
(ならこれでどうだ!)
足元の鳥がドラゴンへと姿を変えた。
泥「お前ら下がってろよ、うん!」
─C2ドラゴン!
今度は更に強烈な爆音が連続して轟く。
空気がビリビリと震え顔面の筋肉が痙攣しているようだ。
泥「これで跡形もなく吹っ飛んだぜ、うん」
そして無傷の対象が顔を出した。
泥「……」
飛「ゲハハハハハ!何だよそりゃ、だっせー!台詞と行動が伴ってねーっつぅの!」
角「飛段…貴様がそれを言うな、殺意が沸く。あぁ…沸々と沸いてくる、さぁ今から殺してやろう」
蠍「おいジジイ…今はそんなへっぽこ銀杏を相手にしてる場合じゃねぇだろ…数刻で終わらせるんじゃなかったのか…」
飛「な─っ!誰が銀杏だと!?」
蠍「喚くな茶碗蒸しの嫌われ者が。俺は里に居た頃からお前が嫌いだ…そして臭い」
飛「知るか!」
鮫「はぁ…確かにこの方好き嫌い激しそうですもんねぇ…『ボク食べれないです』とか呟いてモジモジしてそうですねぇ、フフ」
鼬「そんな事より目的を達成しろ、デイダラの爆発が駄目なら次は誰が行く……鬼鮫、そんな所で死んでいたら邪魔だ」
サソリがカチャリと尾をしまう。
泥「……チッ、暁の中で随一の破壊力を持つオイラの次なんていねぇよ、うん」
確かに。デイダラに勝る攻撃力のある術はそれこそペインの神羅天征くらいだ。
鮫「そうですねぇ…私の水遁やイタチさんの火遁もかなりの威力はありますが、デイダラの爆発でビクともしないとなると恐らく無駄でしょうねぇ」
口の泡を拭いながら鬼鮫が起き上がる。
蠍「図に乗るなよデイダラ…さっきアイツも言ってただろう、常識は通用しねぇってな…忍の世界は破壊力だけが全てじゃねぇぜ」
角「確かにな。頭を使えとも言っていたな…つまり何かしらの仕掛けである可能性もある」
飛「何だよそれ、俺考えるのとかマジ無理なんだけど」
鼬「……貴様は一体何なんだ。暁の一員か?散れ」
飛「はあぁ!?」
角「すまんなイタチ、これでも俺の連れだ。だが暁一低能な頭部を所持している」
飛「何だよお前らみんなして俺を馬鹿にしやがって!生け贄にされたいのかコラァ!」
鼬「であれば、どの忍術が効果があるのか一通り試してみるのがいいだろう」
鮫「そうですねぇ、では順番にやりますか」
飛「……ケッ無視かよ」
そして各々、使用頻度の高い技を繰り出した。
鼬「火遁─豪火球の術!」
飛「大釜の舞い!」
泥「C3─オハコ!」
鮫「水遁─五食鮫!」
蠍「砂鉄時雨!」INヒルコ
角「雷遁─偽暗!」