繋がり。

それは、『繋がり』の物語…


大通りの信号待ちは嫌いだ。
人混みが嫌い。他人が嫌い。
ヘッドフォン越しに聴こえる音楽に集中して、周りを見ないように自分の世界に入り込もうとした時に、

(………ん?)

小さな影が視界にチラついた。

「あ。子猫…旦那ぁ、アレ危ねーんじゃ…」

隣にいたデイダラの声を聞き終える前に、身体が勝手に動いた。
軽自動車がクラクションをあげる。
周りがざわつく。
デイダラの叫びに似た声が俺を呼ぶ。

だけど、そんなモノなどどうでも良い。
俺は、自分を危険にさらしてまでアイツを助けたコトを後悔してないから…な。

これが出逢い。







「アンタ何考えてんだよ!?」

本当に危なかった。
まさか、旦那が子猫を助ける為に後先考えず動くとは思わなかった。
軽自動車の運転手は旦那に罵声を浴びせ走り去って行ったが、旦那は気にも止めずに子猫を抱き抱え、道路を渡って行ってしまった。
信号が青になり、何とか旦那に追いついたので怒鳴りつけてやろうと口を開くと

「俺もコイツも無事なんだし、そう怒んな」

その一言で話を切られた。


先ホドから旦那の腕に抱かれ、気持ち良さげに寝ている子猫を
旦那はとても穏やかな表情で見つめている。何だか子猫が羨ましいな、とか思っていると…

「…決めた。コイツの名は『シロ』だ」

数秒の沈黙。
旦那はオイラに『猫の飼い方わかるか?』とか聞いているが、
ちょっと待て旦那っ。
何て?この子猫が何て??

「だから、シロって言ってんだろ。
ちゃんと耳そーじしてんのかよ?」

「シロ?本当にシロ??正気かアンタ!?」

だってこの子猫、
どう見ても真っ黒じゃんっっ!



旦那いわゆる『隠し味』らしい。
甘いもんに塩を入れる、みたいな感じ?更に甘くなるって言うだろ。
オイラにはよくわかんねーけど、旦那が言うんだから否定はしない。
俺様の考えなんてわかんねーもん。

だけど、旦那が付け足した言葉の意味はわかるぞ。

『コイツは俺らと違って心は真っ白で綺麗だろ?』

人間はみんな汚い生き物だもんな…






シロがウチに来て変わったコト。
家に帰ると、『ただいま』って言える様になったコト…

両親は俺が餓鬼の頃に事故で死んだ。
親代わりのチヨバアは病院のお偉いさんだから滅多に帰って来ない。
学校に行けばダチに会えるが、家に帰ると独りだった。

誰かに『ただいま』なんて言ったの、いつ以来だろうな
それに、食事を作る量が少し多くなった。俺の分とシロの分。






「猫!?サソリって猫飼ってんの!?」

オイラと旦那がシロの話を学校でしている時、飛段が食いついて来た。
飛段は動物好きで、家で熊を飼いたいらしい。何とも命知らずとゆーか、馬鹿なヤツだとオイラは思う。

飛段がどーしてもシロが見たいとねだるもんだから、仕方なく旦那が了承すると
何故かイタチも行くと話に入ってきたので、オイラも含め3人で学校がおわり次第旦那のウチに行くコトになった。


「……ただいま」

「「「おじゃましまーす」」」

3人でズカズカと家の中に入っていくと、真っ黒な猫『シロ』がちょこちょこ歩いて来た。

「うっほぉ!めちゃくちゃ可愛いじゃねーかよサソリぃ!!」

早速シロを触ろうと飛段が手を出した瞬間、噛まれた。会ってものの数秒で敵とみなされた飛段が哀れだ。

「サソリさんが動物を飼うなんて…
デイダラ、明日地球が爆発するかもしれない。今日のウチにやり残したコトがないか確認した方がいい」

真面目顔で言うもんだからイタチは旦那に後頭部を叩かれた。
まぁ、確かにオイラも思ったケド、口に出したらイタチより酷い目に合うだろうから言わない。絶対に。

「サソリさん、俺も触って良いですか?
黒猫は好きなんで」

「別に構わねーケド…」

何だかんだでイタチも動物好きなんだ、とか思ってると

ガリッ


……噛まれた。
イタチの紅葉のよーなお手て(中指)に歯形が。

飛段とイタチが『何で!?』って面してるから、オイラは鼻で笑ってやった。
お前ら動物に嫌われてんじゃねーの?
フフンッ オイラがお手本を見せてやんよ!

「シロ〜。こっちに…」

フーッッ!!!!



………オイラは近づくコトすら許してもらえませんでした。


――――――


シロは俺以外になつかない。
ちょっとくすぐったいこの気持ちは、何なんだろうな?

「今日は鰹で良いか?」

シロに聞くなんて可笑しな話だが、コイツは理解してるみたいで『早くやれ』と言わんばかりに俺の足元を行ったり来たりする。

ククッ お前も待つのが嫌いなんだな




『ペットは飼い主に似る』ってよく言うよな?オイラは絶対そうだと思う。

旦那がシロを飼って数ヶ月。
なんつーか…目付きが旦那そっくりになってきた。もう子猫と呼ぶには大き過ぎるホド成長したシロは、今では近所のボス的な存在になっていた。
やるコトは大胆不敵なのに、何処と無く旦那と同じ雰囲気を醸し出してる、ってゆーか…
旦那に言ったら『んなワケねーだろ』って笑ってたケド、
んなワケあるから話したんだよ うん




ある日また3人が俺のウチに乗り込んで来た。この前のリベンジに来たんだとか言ってるが…

「んなコト後回しだ!
それより、シロの様子がおかしいんだよ!!」

さっきまで俺のクッションを強奪して毛繕いしてたのに、急に咳込み出したとゆーか…
苦しそうにしてるんだ

「シ、シロ!?だ、旦那!どうすんだよ!?」

「おいおいおい!!何かヤバいんじゃねーの!?」

頼むから俺の心配を煽るようなリアクションは止めろ馬鹿共っっ!!
俺だってどうしたら良いのかわかんねーんだぞ!?

「サソリさん、飛段、デイダラ。
大丈夫だから落ち着け」

イタチの言葉に『こんな状況、落ち着いてられっか!!』と反論しようとした時、

お゛ぇっっ

「「「 っ!? 」」」


シロが何か吐き出した。
これは…毛?

「毛玉を吐き出そうとしてただけだ。
別に病でもなんでもない」

ティッシュに毛玉を包みながらイタチが言うもんだから、俺は脱力した。久方ぶりに焦ったじゃねーかよ…

それに、もちろんその日もアイツらは惨敗。
生傷が痛々しかったな。





「なぁ旦那ぁ。そう言えば最近、シロって太ったよな?」

オイラは何となく思ったコトを口にしてみた。どうやら旦那も気にしてたみたいで、『餌の量はいつも通りなんだが…』って悩んでたから、イタチに相談してみるコトに。

「…ってワケなんだが。何かわかるか?」

「考えられるコトと言ったら…
妊娠、じゃないのか?」

『妊娠』って単語にオイラは驚いた。
シロって雌だったのか!?

「妊娠!?ちょっ、シロって雌だったのかよ!?///」

ちょっと待て飼い主っ!!
何で数ヶ月も共に過ごしてんのに知らねーんだよ!?しかも、何で照れた!?

「雄だと思ってたから家で堂々と着替えてたし、風呂後とかフ○チンでシロとテレビ見てたのに!
うわぁ…女だったとはな
俺のって、そこまで小さくねーよな?
他人に見られても恥ずかしくないサイズだよな??」

「オイラに聞くな!!///
つか、シロに謝れ!!うん!」

「サソリさん、大丈夫だ。普通よりデカイから。デイダラは並のサイズだが…」

「イタチてめぇぇぇぇ!!!///」





シロが母親になろうとしている。
嬉しい半面、何処の野良だ(怒)? 半面

だけど、コレから大変になりそうだ。
俺が産まれてくるガキ共の父親代理、なんだからな


――――――







築き上げてきたモノは
儚くて脆いモノだったんだ






あの日は雨が降っていた。
下校時間になると、本降りになってきたらしく、傘をさしていても余り意味などなかった。
そんな中を俺とデイダラ、飛段とイタチは他愛ない話をしながら帰っていた。
鞄の中の携帯やウォークマンの心配をしながら、とりあえず俺の家を目指して歩みを進めていく。コイツらの家より、俺の家の方が近いからって理由で雨の日に野郎3人を匿うとは…

タオル足りるか?とか

雨独特の匂い嫌いだからファブるか…とか

そんなコトを考えていた矢先のコトだった。



ウチまでもう少しって所の歩道脇に黒い塊が横たわっているのが見えた。



嫌な予感がした。
一気に血の気が引いていくのがわかる。

さしていた傘も鞄も投げ捨てて
その塊の元へ走った。

俺の異変に気づいた3人も走って後を追ってきた。
そして、言葉を失った…











「 ……シロ…… 」








真っ黒な毛は雨にうたれ
血溜まりは雨水に流され
ばっくりと開いた腹部から臓器と未だ発育途中だった子猫らしき塊が覗いていた

ゆっくり伸ばした手をシロの腹部へと向け、子猫を引きずり出した。
一匹、また一匹と…


「な…っ!旦那!?何してんだよ!!」

俺の腕を強く握り、デイダラが止めに入った。
何って…
まだ生きてるかもしれないだろ…?


「気持ちはわかるケド、シロもその子猫も…」

「…っせぇ!
まだ…!まだ間に合う!!」

デイダラを振り払い、俺は自分に言い聞かせる。大丈夫、まだ間に合うって。



「落ち着けサソリ!
デイダラちゃんも、大丈夫かよ!?」


飛段の声で我に返った。
勢いよくデイダラ振り払ったせいで、地べたに座り込んでデイダラは唸っていた。

「デイ…っ、悪「 サソリさん 」 っ!」

先ホドから黙り込んでいたイタチに呼ばれ、身体が強張った。

本当は、わかってる
わかってるから
言わないでくれ…






「……もう、死んでるんだ」



雨が降っててくれて良かった。
涙を一緒に流してもわからないだろ…?

(end)


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