ねっとり

傀儡を造るのには色々と道具が必要だ。戦闘で速攻破壊されることもしばしばあるが、丁寧に作製すれば割りと頑丈である。そしてそれには欠かしてはならない道具があり、接着剤もその一つである。

…が、無いのだ。

サソリは先程からずっと自室の至るところを探しているのだが接着剤が見当たらない。無くすこと自体は珍しくないのだ。これだけ部屋中傀儡の部品やらが存在すれば接着剤の一つや二つ無くなっても不思議ではない。
しかしそうはならない。何故ならサソリは接着剤を約十個は所持していたのだ。いくら部屋が散らかっていても十個全てを一気に紛失するなどあり得ないことだろう。

「何で無い」

サソリはもう探しようがなくなり苛立った。自分のした事は記憶している、売ったり誰かにあげたりなどという行為はした覚えが無い。

「無いはずは無い」

扉を閉めきった自室の中心に佇みながら、サソリは宙を睨んだ。





「おいデイダラ!」

サソリは我が相方を疑いに掛かることにしたのだった。
彼の部屋の扉を蹴り開ける。
しかし反動で跳ね返った扉は再び閉まった。
デイダラの呆気にとられた表情も目に入った。

…扉を挟んで沈黙が流れた。

サソリはノブを手で捻り、普通に開けて部屋に踏み入った。

「おいデイダラ!」

「アンタ何事も無かった風に進めようとしてるだろ」

そんなことはいい、とサソリは話を区切る。接着剤を見つけたいがためにデイダラの部屋に入ったのだ、早く本題に移りたい。

「俺の接着剤を返せ。さもなくば殺す」

サソリと時を共にする時間が長いのはデイダラだ。サソリの部屋にだって入ることもある。つまり何かを盗む暇もある、ということだ。
しかしデイダラは眉を寄せた。"さっぱりわからない"という顔だ。サソリが「俺の部屋に入るのはお前くらいだろう」と言っても反応は変わらなかった。

「よくわかんねぇけど、オイラを疑ってんのか…うん」

デイダラはベッドに腰掛け粘土をこねていたが、サソリに疑いの眼を向けられたことに腹を立て、寝っ転がりサソリに背を向けた。

デイダラではないのだろうか。

サソリはまたわからなくなった。デイダラ以外に怪しい者など見当がつかない。
舌打ちをして、どっかりとその場に腰を下ろした。

「…用が済んだなら出てけよ、うん」

デイダラは壁を睨んだままサソリに言った。不貞腐れているような口振りだ。
しかし他に探す場所も無かったのでサソリは面倒臭くなり、デイダラの部屋でくつろぎ出した。

「粘土臭ぇな、この部屋」
「殺すぞ…うん」
というやり取りをした後はお互い静かになった。


ふと、サソリは灯りとして置いてある蝋燭に目をやった。

「おい、あの蝋燭無くなりかけてるぞ」

別の物と取り換えるよう忠告してやった、のだが、返事が来ない。

「デイダラ」

呼んでも応答無し。サソリからは背中しか見えないのだが、なんとなく察知した。デイダラは多分寝ている。いびきも寝言も無く、とても静かに。

寝ている奴に話しかけていても退屈なので、とサソリは部屋を物色する。興味は無いが、あまりに暇だったのだ。
引き出しを上から順々に覗いた。
すると、一番下の引き出しになにやら見馴れた品が入っている。サソリがよく使用する傀儡の腕と、大量の接着剤だった。

サソリは暫し固まった。

"この傀儡の腕、無くしたとばかり思っていた"とか違う内容も頭に浮かんだが、問題はこの接着剤…。
傀儡の腕を見る限り、壊してしまったのを接着剤で必死に修復させようとしているかんじだ。反省の心は伺えるが、接着剤という道具を無駄に消費したようなものだ。

「嘘つく演技が上手いんだな、デイダラ?やっぱ犯人はてめぇだったのか」

殺してやろうか、とサソリは安らかに眠る相方を睨む。
しかし、デイダラは全く起きる気配を見せない。

(おい…)

忍が殺意漂わせる相手を前に眠り続けるなど、どういう神経をしているのだ。


「サソリにだけは心を許してるんだね」
「ソウミタイダナ」

その時いきなり部屋の壁から僅かに顔を出してきたゼツがヒソヒソと喋った。

「仲良いよねホント」

面白そうに白ゼツはサソリにそう言い、その姿を再び壁に消えさせた。

なんだったんだ、とサソリは呆気にとられた。


(俺にだけ…、)


そしてゼツの言葉を反芻した。なんだか殺す気も失せたのでサソリは自室に戻ることにした。

しかし接着剤の話はこれで終わらせない。弁償させてやる。

「高かったんだからな」

扉を静かに閉めてそこを離れた。




デイダラは扉の閉まる音を聞いてから目をうっすら開けた。本当に寝てはいたのだが、途中から起きていたのだ。

「せっかくしらばっくれたってのに……見つけられちまったっぽいな、うん」

"これから戦闘だな"などと考えながらデイダラはまた眠ることにした。

黙ってサソリの部屋に入り、足元にあった傀儡の腕を踏み潰してしまったという経路は秘密にしよう。
あの接着剤並みに、サソリの恨みはねっとりとしつこいから。




fin.


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