証明( 強がり の続編)

胸元に下がる金属を握りしめた。
何も考えない、考えない。
…考えない、と考えている時点でそれは考えているではないか、なんて思う飛段は雑念の海に溺れていた。
握りしめていたジャシン教のマークをかたどるアクセサリーを手離し、息を吐いた。

「飛段貴様、何をしている。早く来い」

角都が呼んでいる。飛段は賞金稼ぎなど興味が無いので、一人で行ってほしいと思った。
しかしそれと同時に、「まぁ今度は半殺しじゃなく、息の根を止めるところまでやれるからいいか」とも思った。

「賞金首、強ぇかなぁ?」

期待を交えながら飛段は角都の横に並び、共にアジトの出口に向かった。

彼のことは、考えない。



───────────────


「デイダラ、行くぞ」

ヒルコの状態のサソリはゴツい身体を引きずり、相方の部屋の扉の前で待っていた。

今サソリとデイダラは、他のアジトに移ろうとコンビとして動いていた。

「旦那、裾が若干長いぜコレ……うん」

デイダラは新調したばかりの衣を来ながら、抑揚の無い声音で作りに文句を出してきた。
だが口でああは言うものの、あまり念頭には置いていないのだろう。それ以上裾について触れてこなかった。
「成長期だからとリーダーが配慮したんじゃないか?」などとサソリは適当に返事をしてやった。
アジトの長い通路をサソリとデイダラは歩きながら、"向かうアジトの場所"について少し話した。


出口に着くと、岩陰に灰色の髪の男が鎌を背負い座っていた。
面倒臭いことにならないでほしい。とサソリは心の中で思った。そしてズルズル音を立て、飛段の横を通った。
その後に続いてデイダラも飛段の横を、通りかけた。が、

「何?」

デイダラは飛段の前で止まっていたのだ。飛段は思わず迷惑そうな顔でそう言った。
三人の間に沈黙が流れる。
話題を反らそうと、サソリはげんなりしながら「角都はどうした?」と飛段に眼で訴えた。すると彼は「あぁ、」という反応を示したのでアイコンタクトは成功だ。

「不本意だが俺達これからちょっと金稼ぎに出ようと思ってよ…。でもここまで来たのは良いが角都の奴、リストを忘れたとかなんとか言って中に戻っちまった」

待たされてんだよ。と愚痴っている。
サソリは尋ねたものの興味が無かったので、「へぇ。」と空返事をした。

その流れに全く乗らないデイダラは、じっと動かず飛段の前で立ち止まったままだ。
飛段はサソリの質問に答えながらもデイダラが視界に入っていた。先程"彼のことは考えない"と誓ったばかりなのに相手から来られてはどうにも…。と眉を下げた。

「おいデイダラ」

サソリもだるそうにデイダラを呼んだが、呼ばれた本人はサソリを見ない。飛段も角都が来ないことにはこの場から移動できないのでそのまま座っている。
また沈黙…。

「お前にオイラの芸術はわかんねぇ」

喋った。
飛段は地面を見ていた眼で彼を見上げた。
太陽の光が逆光となっていて表情がよく見えない。眩しくて眼を細めた。
しかし、見下ろすデイダラが瞳孔の開いたような眼で自分を睨んでいることはわかった。

「あっそ」

飛段は眼を反らし、つまらなさそうに返事した。
ちょうどその時角都が出口に向かい歩いて来たようで、カツ、カツ、カツと足音が聞こえてきた。

「待たせたな飛段。今度こそ行くぞ」

角都はサソリとデイダラをその場にいないかのように無視し、さっさと森に足を進めていった。
飛段も立ち上がり角都を追った。
デイダラは飛段の背を見ていた。いや、実際に背を見ていたのかよくわからない。サソリから見るとデイダラの眼は焦点が合っていないように感じた。

とにかくやっと俺達も行動できる、とサソリはヒルコの中で溜め息。
またズルズル進み始めるとデイダラもついてくるのがわかった。

はぁ、それにしてもめんどくせぇ。


───────────────


角都は横を相方が歩くのを確認しながら話し出した。

「貴様、どれだけデイダラとじゃれるのが好きなんだ」

角都もサソリ同様、相方にうんざりした様子だ。

「じゃれてねーし!毎回喧嘩売ってくんのは向こうなんだよ!!」

飛段は角都の発言にカッとなり怒鳴る。
飛段はデイダラの感性についてあまり否定する気は無かった。しかし殺し合いともなれば話は別で、是非!というかんじだった。そして相手からも「お前嫌い」みたいなオーラが感じられるので、結局戦闘に走る。

「ま、喧嘩じゃなくて殺し合いだけどな」

飛段は付け足しておいた。
おそらく、いや確実にデイダラは"喧嘩"なんてレベルのものを求めてはいない。勝ち=生、負け=死。飛段の頭の中の方程式はこうだ。デイダラもそう。
似た者同士、近づいては反発。その繰り返しだ。

「しっかしアイツって、チャラそうに見えて熱いっつーか…。意志強いよな」

角都は「貴様に"チャラそう"などと言われたくは無いだろう」と瞬時に思った。
ちなみにアイツとはデイダラのことだ。

「なんつーかよぉ、何か………んー」

何なんだ鬱陶しい。ハッキリしろ。
角都はイラッとした。話を聞いてやっているだけ有難いと思え、と理不尽に内心考えた。


「自分のことより"芸術"についてけなした方が怒るよな、多分よ」


………。
馬鹿のくせにわかった風な言い方をするものだ。
と、…見直した。といっていいのか、角都は納得するように一人頷いた。

「俺は戦いにそんなん求めねぇけど」

そんなことは知っている。飛段がいちいち戦うたび「俺はてめぇに勝つ!!」などとほざいていれば舌を飛ばしてやる。うるさいからだ。
飛段本人も、以前「意気込みみたいなのぶつけられるとイラッとくるんだよね」とかなんとか言っていた。デイダラにもイラッとしているのだろうか。

「デイダラがまた喧嘩を売ってきたらお前はそれを買うのか」

角都が問えば、飛段は唸った。

「ん〜〜……まぁ買うだろうけど…」

歯切れの悪い。
角都はイラッとした。
というか角都はさっきから飛段に対しイライラしっぱなしである。

「もうアイツ、俺に喧嘩売ってこねぇと思う」

飛段は確信に満ちたように言った。
角都は少しばかり目を丸くさせた。なぜ確証も無くそんなことを言うのか。
その角都の表情を見てか、飛段は肩をすくめて言う。

「死なねぇ人間じゃ証明できねーんじゃん?」

角都はただ聞いていた。
飛段は続ける。

「"芸術"が"アイツ"なんだよ。"芸術"の犠牲になる奴が死んで初めて"自分"の存在を確認できる…みたいな。"自分"の存在証明?」

「お、俺何か今カッコいいこと言った」と、彼は呟いている。その呟きでたとえ格好良いことを言っていたのだとしても全て台無しになってしまった、飛段。

「とにかく前戦って、そんなかんじな何かを俺は感じた」

角都は、飛段が戦っている間そのような深いことを考える奴だとは、思ってもみなかった。ただの馬鹿ではなかったというのか。

「さっきアイツ何か言ってきたけど、大人の余裕っての?華麗にスルーしてやったんだぜ」

何、自慢気に話しているのだ。大人はそんなことわざわざ報告しないぞ。やはりただの馬鹿だ。

「ま…、"アイツの芸術"は確かにわかんねーし」

独り言をブツブツと言っているが角都は構わず早足で歩いた。
後ろで何か喚いているが気にしない。


飛段はデイダラをしっかり見ていたのだな…。


やはり、デイダラの方がまだ幼いということか、飛段が少しは頭を使う奴だったということか。

「つか、不死で良かったわホント。そうじゃなかったらあの時俺死んでたかも」

飛段は冗談半分、本気半分で言った。角都は呆れる。

「馬鹿かお前は。不死じゃなかったらお前は暁にいない」

なんて言ってやったら、彼は憤慨した。

「あってめぇ!デイダラと同じこと言いやがった!ムカつくわ、やっぱ!!」

デイダラにも同じことを言われたらしい。眉間に皺を寄せまた喚く。
だがそんなことは知らん。

「俺の方がムカついている」

角都は先程までのイライラのことを指した。

「年寄りが"ムカつく"なんて言葉使うなよ、不自然だぜ角都!!」

高笑いしながら飛段は角都を罵倒した。

「…飛段、貴様は殺してやる……」

角都はしばらく彼を睨んだ後、そう言った。そして返ってくるセリフは決まっている。

「だぁから、それを俺に言うかよ!」



───────────────


「サソリ、デイダラは戻ったの?」

別のアジトにサソリ達コンビが着いて間も無くゼツが壁から現れ、白い方がサソリに尋ねてきた。
デイダラは今は外にいるので話は聞かれない。

「俺に聞くんじゃねぇよ…」

サソリはぼやいた。
デイダラの容態について事細かに知る気は無い。だが傍にいてぼんやりとわかったのは、彼の眼。飛段との戦闘がある前の眼には戻らなかった。
今も、その眼のままだ。
つまり、目付きが悪くなった。と言ってしまえばわかりやすいかもしれない。本人が自覚しているかどうかは不明だ。

「もともと可愛くねぇが、どんどん可愛げが無くなっていくぜアイツ」

サソリがそう言うと、白ゼツは笑った。

「しょうがないんじゃない?それが大人になるってことだよ、きっと」

大人になる、か。

その前に、あの「芸術は爆発だ」とか言うのを無くせたらいいのに。ウザくて堪らない。





奴はいつだって、口を開けば"芸術"なのだ。

自分に言い聞かせ、確かめるように。





fin.


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