幼なじみの髪

各国が戦いを始めると聞いて、ジジイの側近を務める自分もおのずと戦いに望まなければならないことを知る。
野蛮、危険。面倒臭い。
しかし勝たなければ。正と悪は必ず戦わなければならなく、正は勝たなければならない。マダラからすればこちら側が悪に見えてくるのかもしれないが、多数決として人数の多いこちら側が正と考えて妥当だ。
マダラ側に"暁"のメンバーはほぼ残っていないので、実質一人…と、思ったが。なにやら手を組んだ?誰と。

薬師カブト。
大蛇丸の手下ではないか。

いざ対峙すると奴は人間というより蛇の風貌で、そして眼鏡を着用だ。
奴は死者を甦らせる術を使ったそうな。死んだ奴は大人しく休ませてあげろよ、と思ったりしたが、そんな死者の中に見知った顔もいたわけで。

「デイダラ兄じゃん!」

隣のジジイは溜め息を吐いて再会の途端に兄に説教。赤ツチは浮かれている。アタイも浮かれているといえば浮かれているが。ぼんやりと、「やっぱ死んだのか」と。
死んだから死者になっているわけだ。死んだから穢土転生されたわけだ。

ジジイは文句を垂れた後、兄と戦い始める。
おーい、兄ってば。アタイに挨拶無しかい。

「生きてたわけじゃないだにね…」

赤ツチは落胆した。

「諦めな赤ツチ。兄は死んだから」

とは言いつつ、自分のその発言に少し後悔した。赤ツチは「うん」と頷く。アタイは眉を寄せ、話を一転させようと適当に思いつきを述べた。

「デイダラ兄の奴、変な髪型してたな!」

すると沈黙。
何か可笑しなことでも言ったかと不思議に思い赤ツチを見つめる。奴は穏やかな表情を浮かべ笑った。

「髪の長さは変わってないだに。デイダラ兄も、黒ツチも」

アタイは瞬きして「あー」と呟いた。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「卒業おめでとう。よくやった」

アカデミーに通う幼き少年少女は、教師のその一言に合わせて拍手を始めた。

「次、デイダラ」

アタイは同い年の友人や赤ツチと、卒業を迎え晴れて忍となる子を見つめていた。拍手を送られた少女が教師の前から下がった後、次の子の順番がきた。金の長い髪を後ろで纏めたその子は、照れたように眉を下げて教師の大きな手から額当てを受け取った。

「いいなー卒業」

赤ツチは卒業式の光景を羨ましそうに指をくわえて見つめている。

馬鹿野郎、あんな歳で卒業できる奴なんかそうそういないっつの。



式が終了した後、下校したアタイは一人帰路についていた。ちなみに赤ツチは友人と遊んでくると言って公園へ消えた。まあ午前中に学校が終われば午後は自由に遊ぶのがお決まりだろう。アタイは親父に忍術を学ぶ約束をしていたので真っ直ぐ家に帰る。

低めの塀が両脇に立つ広めの道を歩いていた時だ。塀に腰掛け俯く人間がいた。

ん?あれは。

アタイがいつも歩く道に、いつもいないその存在。先程の卒業式で見た金髪。
通り過ぎようか迷った末、気になって傍に寄ってしまった。

「おい!」

アタイがそう声をかけると、金髪はビクッと肩を揺らした。左目は長い前髪で隠れているが、拝見できる右目とアタイの目がかち合った。青い眼はうるうると揺れている。

「泣いてんのか?」

アタイが顔を覗き込むと、金髪は俯き、両手でアタイの身体を突き放した。アタイは己のこめかみがピクリと動く感覚を感じた。

「んだよ、女だからってメソメソしてばっかり!!」

アタイがそう声を荒らげて叫ぶ。と、直ぐに返事が来た。

「オイラは男だ馬鹿!うん!」

金髪を振り乱して、鼻声で。
(アタイの中で長い髪=女という方程式は決まっていた。)
アタイが目を丸くしている間にも奴は続けた。

「お前こそ男のくせに網タイツなんか履いてんじゃねーよ!うん」

アタイは血管が切れた気がした。

「アタイは女だボケェ!!」

そして奴の頭を叩いた。すると奴も立ち上がり、歯ぎしりして拳を固めた。

「殴ったな…うん!」

それからは殺し合い――そのように解釈しているのは恐らくアタイと奴だけだろう――だった。通りすがりの近所のおばさんに「可愛いわねぇ」などとクスクス笑われた。
喧嘩の決着は、アタイの親父がつけた。いつまでも家に帰らないアタイを心配して探しに来たらしかった。アタイは拳骨をもらい、奴は頭を撫でられた。

「ゴメンな嬢ちゃん、うちの餓鬼が迷惑かけて」

金髪を優しく包む大人のごつい手が去り際、親父は言っていた。奴は再び憤慨した。ざまあみろ、とその時は思った。
しかし親父がアタイの手を引き、奴に背を向け歩き出すと、奴の青い眼はうるうるし始めた。アタイは首だけなるべく後ろに向け、遠ざかる金髪を見つめた。奴は最初と同じく塀に座って大人しくなった。
曲がり角を曲がったアタイは、それ以後を知らない。もう話すことも無い。と、思っていた。


数日後にアタイの祖父は見飽きた金髪を家の庭に連れて来た。

「黒ツチ、こやつに稽古つけてもらえ」

祖父の、というかジジイの発言にアタイは沸騰した。

何でコイツ!?

立派な忍ですと言わんばかりに額当てをつけた金髪を睨み、アタイは殴りにかかった。すると奴は突如両手を突き出した。

「やる。感謝しろ、うん」

アタイは振り上げた右手を虚しく下げ、奴の手元を見た。粘土で作られた小鳥が乗っていた。

「なにこれ?爆弾?」

アタイは怪訝な表情を浮かべ小鳥を手に取った。

「爆弾なわけないだろ。オイラは芸術家だ。粘土が好きなの!うん」

奴が粘土でそれはそれは見事な作品を作り上げることなど、人生経験の浅いアタイは知らなかった。
ジジイは鼻で笑った。

「くだらん。そんなもん作る暇があるなら忍術を一つでも増やせっつの」

どうやらジジイは奴の作品を嫌うようだが、アタイはそれを素敵だと思った。無表情の金髪を見つめて言った。

「おい金髪、名前なんだっけ?」

「デイダラ兄だに!」

アタイの質問に先に答えたのは奴でなく部屋の奥から来た赤ツチだった。

デイダラ…にぃ?

赤ツチはアタイを通り越し奴の傍に寄った。

「デイダラ兄、仲良くするだにっ!」

赤ツチは手を出し奴に握手を求める。奴は照れ笑いをして受けた。

「おぅよ」

その時の笑顔は、幼い中にも"男の要素"が含まれていた。アタイも、赤ツチが言う呼び名で奴を呼ぶことにした。

あー、まぁ、宜しく。

照れたので心の中でだけ挨拶した。

「黒ツチは兄の長くて真っ直ぐな髪が羨ましいだにか?」

赤ツチは口を尖らすアタイを見つめ、突飛なことを言い出した。アタイが以前「髪伸ばそうかなぁ」と呟いていたのをハッキリ覚えていたようだ。
しかし今はとりあえず違います。挨拶が恥ずかしいだけです。

「く…黒ツチ?…お前は短い方が似合ってるよ。うん」

奴が口を挟んできた。
だから髪は別に何も思ってないです。
とはいえ名前を呼ばれ少しドキリとしたアタイは、手にある小鳥をいじってそっぽを向いた。

しかし奴は一言多かった。

「その方が男に磨きがかかるしな!うん」

「だからアタイは女だバカヤロー!!」

そして止めるのは親父だ。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



あれから十年程立ち、デイダラ兄は髪を切るだろうと思っていたが、むしろ伸びているし。なにやら頭の頂上で結んでいる。本当に変な髪型。まあ今なら声変わりしているようだから、確実に男だとわかる。
アタイも成長して女らしい身体になったのだ。胸が出て尻も出て。これで網タイツを履いても咎められることはない。

「皆、変わってないだに」

赤ツチがにっこりと笑った。

「うん、そうだね」

赤ツチは恐らく身体の成長について言ったわけではない、とアタイは感じたので、頷いておいた。


「お前ら、ついてくるんじゃぜ!」

「おう!」
「あい!」

ジジイの声に、アタイと赤ツチは威勢良く返事した。




fin.


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