末路へと進む

会議中にまた口喧嘩が始まった。
オイラではない。例えオイラが口論し出したとしても、現相方の男、トビはそれに反論しない。ゆえに喧嘩にならない。
口喧嘩をしているのはゾンビと称されるツーマンセルの人間ども。

「だから、お前だって!」

片方は大口を開けて咆哮し。

「いい加減黙らんか…」

片方はマスクの下で密かに怒気を含ませる。

やはり喧嘩になる原因は、片方の挑戦的な態度だろう。飛段は正にその辺のゴロツキだ。オイラもどちらかと言えばそちら側だが奴よりは忍耐力がある。奴と比べては程度も下がる気がするが、とにかくそうだ。そして角都も割りと相手を挑発しやすい性格。初対面の時は冷静な奴なのかと思っていたが、所詮犯罪者。思考がまず一般的でない。

「話を続けるぞ」

特徴の無いシルエットを浮かび上がらせた男が仲裁に入った。リーダーの幻影は本当に特徴が無いので、周りの人間と比べて"地味な幻影"をいつも目印にしている。まあ輪廻眼といわれる眼がくっきり浮かんでいるのだからそれを目印にした方が早いのかもしれない。ちなみに刀や鎌を背負う幻影は瞬時に誰だかわかるので楽だ。いや、今はそんなことは置いておこう。

「―――で――――だから――しろ」

やかましい口喧嘩を止めた彼が懸命に方針を述べているのでしっかり聞かねばならない…少し退屈だが。
未だ飛段は納得がいかない様子でブツブツ喋っている。

「三尾はデイダラとトビに捕獲してきてもらう」

飛段に気を取られていて急に自分の名を呼ばれオイラは驚いた。トビは「え〜」などと不満気に反応している。
そこで会議は幕を閉じた。

「火の国方面はまだ出向いていないな。行くぞ飛段」

角都はリーダーの話が終わるのを待ち構えていたのか、目的のため途端に幻影を消した。

「いや…二尾が先じゃねぇのか」

その後飛段の幻影も消える。奴の言った通り角都は金稼ぎに行く気満々だった。奴等二人には二尾捕獲という任務が課せられているのに。

「デイダラ先輩、行きましょうか」

オイラはトビに「あぁ」と返事をして幻影を消した。


―――――――――――――――




三尾を封印し終え二尾も同じように尾を抜き取ると、すでにあれから一週間以上もの日にちが経っていたことに気づいた。

「あ゙〜あ…。やっとか」

飛段は首を鳴らした。

「木の葉へ行くぞ飛段」

そしてこの二人、木の葉へ向かうらしい。誰を標的にしているのかは知らないがあの九尾の餓鬼が現れることは必須だった。だからオイラは奴等に忠告してやったのだ。

"気をつけろ"と…。

身を案じているのかと訊かれればそうじゃない。ただ少しでもこう言えば餓鬼の程度を理解してくれるかと思った。
飛段はこちらに罵声を浴びせてきたが、角都は黙って受け入れた。後にいつも通り少しの口喧嘩をして、奴等はアジトからいなくなる。

それが最後だった。






「不死と称される人達でも倒されちゃうんすねー…世の中恐いなぁ」

相方は顎に手をやり唸る。実に悠長。

会議が終わり次の目的のためオイラ達はアジトの外を歩き出していた。


「しかも大蛇丸さんまで!」

奴は「あんま知らないけど」と付け足した。
そう、大蛇丸も同時期に死んだと聞かされた。全く、不死がどうのと言う奴に限り早死にする。

「先輩も気をつけて下さいね!」

トビの奴、誰に向かってそのようなことを言っているのだろう。

「オイラはやるぜ…うん」

そう言うと奴は"何を"とは訊ねてこなかったものの、こちらを見つめていた。
考えてもみろ。大蛇丸はオイラが殺そうとしていた敵。それが死んで「恐いなぁ」で事が済むはずがないのだ。

「喧嘩っ早いですね先輩」

オイラはトビを一瞥する。
お前はやる気が無さすぎだ。

大蛇丸を亡き者にした奴はイタチの弟だった。この目で見たことは無いが、それでもイタチ関連となると沸き上がる感情は同じ。

「やっぱスカしたツラしてんだろうな、うん」

独り言の対象を理解したかトビは軽く笑った。


暫し互いに沈黙。


別段緊迫した状況ではないので気まずかったりするわけではないのだが、どことなく"間"が空く日だ。トビの口数が普段より少ないせいなのか…はたまたオイラに覇気が無いせいなのか…。
と、オイラがちらりとトビを見ると、奴もオイラを見ていた。仮面越しに目が合うのがわかる。

「…角都さんと飛段さん、"一緒に"死んじゃったのが唯一救いみたいなかんじっすよね」

話し出すきっかけだと受け取ったかのように奴は喋り出した。内容はメンバーに対する追悼か嘲笑か。オイラが首を僅かに傾けると、奴は続けた。

「だって片方だけ死んじゃうのって寂しくないすか」

沈黙。

オイラは傾けた首を正常の向きに戻す。

「お前の感覚なんて知るか」

いちいちそんなことばかりを考えるお前は本当にお気楽者だ。一般的にいえばトビの言うことは正しいかもしれないが、オイラ達が生きている世界でそれはまるで弱者の台詞に聴こえる。
そして奴はオイラの返答を素通りするが如く――というか素通りしているのだが――話を続ける。

「だから僕が死ぬ時は先輩も一緒にっ」

明らかに語尾にハートが付いていた。オイラは身震いして、腕を擦れば鳥肌が。

「そんな顔しないで下さい。傷つきます」

トビは、オイラの露骨に嫌悪を表した表情にダメージを受けたようだ。
ざまあみろ。

「あの、言ってる意味わかります?僕が死ぬまで死んじゃ駄目ってことなんすけど…」

頭を掻いて種明かしやら何かを呟いた。オイラはとりあえず聞いてないフリをする。

「僕と一緒にいれば毎日平和で穏やかですよ〜。保障しますって」

そしてオイラは一度目を閉じて記憶を蘇らせる…


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


「デイダラよぉ、お前…」

飛段は突然勿体ぶる喋りでオイラに近づいてきたのだ。
オイラは自室から出て通路をたった一歩進み出したばかりだったので、すぐ傍に誰かがいるとは思っていなかった。だから飛段は当然のようにオイラに向き合っていたが、オイラは"ビックリ"を顔全体で表していた。

「思ったこと言うだけなんだけどよ、」

飛段はそんなオイラの反応を華麗にスルーし(本気で気付いていない可能性もある)、先程の続きらしきものを話し出した。

「トビって奴…何かアレじゃね」

しかしそれは肝心なところが代名詞で覆われ、意味不明だった。
「は?」とオイラは心から思った。ので口に出した。

「いや、わかれよホント。何か伝わんだろ」

飛段もオイラの態度が不満なのか眉間に皺を寄せる。オイラに"アレじゃね"で全てを察しろと言いたいらしい。
オイラが押し黙っていれば、

「変!つーこと!!」

と奴は叫び気味に訴えた。
トビは変だぞ。そんなことは誰の目にも明らかだ。たまにくねくね歩くし。
とか言ってみれば、

「そーいう意味じゃなくて!」

今度は若干の食い違いがあった。

なんだよハッキリしろよ!
「あーもう駄目だお前!馬鹿だ」
んだと!?
「鈍いんだよぉ!」
お前に言われたくない!

オイラ達はその場で口喧嘩した。正にくだらない言い合いだった。しかしなぜか懐かしい感覚を覚えた。口調は互いに荒くなるが、互いに腹は立っていなかったらしい。

「クク……、デイダラ、てめぇ早く死ね」

お前がな。



それで要点のまとまらない会話は終了した。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


嗚呼もう凄く過去のことのように思える。オイラが回想に耽る間、トビは一人で語り続けていた。内容は勿論聞いていなかったので知らない。

「オイラだってそう思ったことはあったさ」

飛段は馬鹿の割りに意味深な台詞を吐くことがある。「トビが変」と言った時の想いも――結局あの後説明せずに奴は去って行った――オイラははぐらかしておいて本当は共感していたのだ。

「変だよな…うん」

でもオイラは黙っているのだ。


………。

「ちょっと先輩さっきからガン無視じゃないすか!何一人でブツブツ言ってんすか!!」

遂にツッコまれた。

「角都達を弔ってたんだよ…うん」

そう適当に誤魔化すが、嘘だとバレバレだ。まあ問題無い。


さあそろそろ行くか。

「…先輩、もう一回言っときますけどね、」

「うるせーな、うん」

「うずまきナルトに敗北した先輩じゃ、うちはサスケは無…」

仮面に粘土をぶつけて爆破させた。奴は何かを言い終わる前に地に伏した。

「喧嘩なら買ってやるぜトビ…。飛段みてぇに首飛ばされたいか?」

オイラは怒りに任せて地面にうつ伏せ状態の糞野郎の後頭部を踏んでやった。「痛い痛い!」と叫んでいる。可哀想に。
奴が地面を叩いて降参を表しているので足は退けた。

「お前と一緒に死ぬ気は無ぇ…うん。オイラがこれからうずまきナルトと戦おうがうちはサスケと戦おうが、お前は離れてろ。いいな?」

オイラが念を押すと、奴は地面と親睦を深めたまま小さく「はい」と言った。
そういうところが、"変"なんだ。いなくなった飛段もそう思うさ。


「くだらない嘘だった、さっきの。弔いなんか嘘でもいらねぇんだ。うん」

またどこかで角都達に逢ったりなどした時に不満を言われそうである。

「オイラは…死ぬだけでいい」

黙って死ぬ方が顔向けしやすい。

「…見てろ、うん」

トビは無言だった。




fin.



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