「ネス、君の初任務が決まったぞ」

「義父さ……ラウル師範!」


開かれた扉の向こうにいたのは、本の持ち主だった。


「フリップ殿が呼んでおる。行っておいで」

「はい。ああ、それとこの本、読み終えたのでお返しします。基礎について詳しく書かれていて、とても役に立ちました。それでは、フリップ様のところへ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


二人で部屋を出て、部屋の入り口で別れた。行き先を見るに、恐らくはトリスの様子でも見に行くのだろう。……どうせ彼女は部屋で昼寝でもしているのだろうが。

それにしても、フリップ様に呼び出されるとは少々不安だ。僕はあの人があまり好きではないし、また、向こうも同じ感情を僕に抱いている。あまり楽しい会話にならないことは、容易に想像がついた。


「召喚士ネスティ、ただいま参上しました」


フリップ様が待ち構えているだろう部屋の前で、扉をノックした後にそう告げる。数秒経って、厳かに「入れ」と声がかかった。


「思ったより早かったではないか」

「……あまりお待たせしてはいけないと思いまして」

「待っていない、とは言っていないがな」

「それは、気がつかずすみません」

「ふん」


この権威主義者め。貴族以外は虫けらだとでも思っているのだろうか。しかし、ここで不快感を顕わにしてしまえば自分の未来を潰すも同じ。僕には蒼の派閥以外のあてなどないのだ。


「それで、任務についてのお話だと伺ったのですが」

「ああそうだ。貴様の初任務は盗賊退治だ」

「盗賊退治、ですか……」


まさかいきなり実戦任務とは、予想外のことだった。上層部の人間たちは僕と盗賊の相討ちでも狙っているんだろうか。
だとしたら、そうなってたまるものか。


「ゼラム周辺の街道の盗賊たちを、だ。これで話は終わりだ」

「そう、ですか。……了解いたしました。それでは、失礼いたします」


深く頭を下げてから、僕は部屋を出ようと扉に手をかけた。


「……ふん、差し違えてでも退治したまえ」


これには、流石に腹がたった。


「ああ、せいぜい頑張ってみますよ。相手にそれほどの実力があれば、ですがね。貴重な助言をありがとうございました。それでは」


相手の反応など気にせずに、僕はすぐ部屋を出た。腹を立てていることを悟られぬように扉はゆっくり静かに閉めて。



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