「ネース!何読んでたの?」


後ろから聞こえた明るい声に、僕は無言で振り向いた。僕の部屋と廊下を隔てるためにあったはずの扉は開いていて、そこには扉の代わりに妹弟子がいた。
彼女の名はトリス。何事にも不真面目なやる気のない召喚士見習いだ。この調子だと、彼女が一人前の召喚士となる日はまだまだ遠い未来の話だろう。


「……君か。これはラウル師範からお借りした、召喚術についての本だ。それはそうとノックくらいしろ」

「ふーん。だいぶ古いみたいね、その本」


ひょいと本を持ち上げて表紙を見せれば、彼女は不思議そうに覗き込む。それはいいのだが、指摘されたことを無視するのは人としてどうなのか。


「ああそうだな。だいぶ昔に買ったものなんだろう。いいか、人の部屋に入る前にはノックをするものなんだ。わかっているのか?」

「でも、ネスったらもう召喚士になったんだし、別に本を読んでまで勉強することもないんじゃない?」


二度目の指摘すら無視をするとは、トリス。君はバカか。


「……初めての任務の前に復習しておこうと思っただけだ。本来ならば、この本は君みたいなやつが読むべきだ。あと、次からはノックをしろ。いいな」

「さ、さすがネスってば真面目よね!あ、あたしは遠慮しようかな!それじゃ!」


さすがのやる気のなさ、というか神経の図太さ、というか。いったい彼女はいつになったら真面目に勉強し始めるのだろうか。正直、一生あの様子なのでは、とまで思わせてくれる恐ろしさだ。
それから、ノックをしろ。


「……はぁ」


僕はため息をついて、立ち上がった。任務の呼び出しがあるまで暇なことだし、読み終えた本を返却しておこうと思った。

その矢先、コン、コン、と部屋の扉がノックされた。間違いなく、これはトリス以外の誰かだろう。



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