ゆりかご

その日もサウンドウェーブは、いつもの時間になまえの部屋の入口を無言でくぐった。十分な広さがあるのに、置かれているものがほとんど無いため殺風景だ。
その部屋の窓際には、ポツンとキングサイズのベッドが置かれていて、小さな膨らみが上下に動いている。

サウンドウェーブはその膨らみに向かって声をかけた。


「なまえ、ソロソロ起キロ」
「……ん、」


なまえは寝起き特有の声を上げてごそごそと動くが、暫くしても現れる気配がない。どうやら、また寝ようとしているらしい。


「…」


深くため息をついたサウンドウェーブは、ベッドに近寄るとシーツごとなまえを手に掬って持ち上げた。
突然の振動に、シーツの中からなまえが顔を覗かせる。


「ううう、なに…」
「朝ダ」



小さく揺すられ、遂に根負けしたなまえは上体をのろのろと起こした。


現れた彼女は、その身に一切何も身につけていなかった。
なまえの白い乳房や肩を隠しているのは彼女自身の長い黒髪だけである。
彼女はしばらくボーッとしていたが、その目をゆっくり上に向けた。


「サウンドウェーブ…」
「ヤット起キタカ」


呆れた、でも愛おしげな声音。なまえは一度伸びをしてから、彼の手にくつろいだ猫のような姿勢で身を横たえた。


「サウンドウェーブ…毎日ごめんねー…」
「構ワン。ソレヨリ早ク服ヲ着テコイ」
「はい…」


床に下ろすと、ノロノロと服を身につけ始めた。その一部始終をサウンドウェーブはバイザーを光らせながら見つめている。
全く恥ずかしがる気配を持たないなまえだが、これはトランスフォーマーの前だからだ。
彼女は、トランスフォーマーは人間の体に興味なんて持たないと勝手に思い込んでいる。

勿論、他の人間に興味など無い。
が、なまえは別だ。

そう思っていることを、サウンドウェーブはもう暫く言わないつもりだ。今はまだ、この関係で満足しているから。何も知らないなまえを眺めているのも楽しい。

無造作に髪をくくり終えたなまえを、サウンドウェーブはまたその掌に乗せて持ち上げた。


「…ふふ」
「ドウシタ?」
「なんでもないー」
「…ソウカ」
「そうです」


不意に笑いだしたなまえの、そのはぐらかすような返事に、サウンドウェーブは苛立つ様子もなく静かに駆動音を鳴らした。


「明日も起こしてくれる?」
「…ショウガナイナ」
「ありがとう」




その掌で寛げる人間は、きっとあとにも先にもなまえだけ。




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