消失

TF主


激しい戦火で荒廃したサイバトロン。メガトロンは散らばる瓦礫や死体の間を堂々とした様子で歩きながら、その実、歯がゆい気持ちに苛まれていた。

オライオン―いや、今はオプティマスと言うべきか。すぐ降伏するかに思えたというのに、意外に粘るかつての友を思って、彼は歯ぎしりする。


それに―。

続いて思い浮かんだ彼女の姿に、押さえきれない想いがメガトロンを襲った。
何故…、何故行ってしまったのか。
どうしようもない気持ちを、手近の瓦礫を壊すことで抑え込もうとする。

その時だ。
メガトロンは前方に見覚えのある装甲を見つけて目を見開いた。白銀のボディのウーマン型。


まさか―。



駆け寄ったそこには、今まさに彼が想っていたなまえが、見るも無惨な様子で横たわっていた。


「―なまえ、」


膝をついて抱き上げた彼女は、本当にひどい状態だった。そのボディには、あちこちにヒビが入り、汚れやオイルが付着しており、あの綺麗な白はどこにも見当たらない。

そして、最も酷い状態なのはその瞳だった。
以前は優しげな青い光を灯していたはずのアイセンサーが、無惨に破壊されている。

もうスパークも尽きてしまったのだろうか。…そうに違いない。
どう考えても、望みは無い。絶望に全身の力が抜けそうになった―まさにその時。なまえの指がピクリと動いたのを視界の端に映して、メガトロンはハッとした。

―まだ、望みはある。




戦争が始まる前、彼女はひどく悩んでいた。オライオンと共に進むか、メガトロナスと共に進むかを。

オライオンを介して、メガトロナスとなまえは出会った。そうして、オライオンとメガトロナスがそうであるように、メガトロナスとなまえもまた、互いに慕いあったのだ。

しかし、もともとオライオンの友人であったなまえは、平和主義であり争いは好まない性格。
決別の時。悩みに悩んだ結果、彼女はオライオンとの道を選んでしまった。
あの時の、彼女の悲痛な表情は、メガトロンの心の中でずっと棘になって刺さっている。

一度は離れていってしまった、かけがえのない存在。
だが、オールスパークは己を見放していなかったのか。
そっと、彼女の眼に触れる。


「なまえ…やはりお前と俺様は一緒にいるべき運命なのだな」


瞳に狂気を宿しながら、メガトロンは低く笑った。

―心配するな、お前は必ず救ってやる。


「オライオンのことなど、忘れてしまえ。お前は俺様だけを思っていればいい」


彼女を腕に抱きながら立ち上がったメガトロンは、通信回線を開き、サウンドウェーブを呼び出した。


「サウンドウェーブ、なまえを連れて帰還する。損傷が激しいからリペアの用意だ。…それから―」






全身の痛みに震えながら、なまえは目を覚ました。しかし、視界は真っ暗で何も見えない。一体、自分は何をしていたのか…。パニックになりかけたその時、聞きなれた声がすぐ傍から話しかけてきた。


「起きたか、なまえ」
「あ…め、メガトロナス……?」
「そうだ」


手探りでその方向に手を伸ばすと、大きな手に優しく握られた。


「こ、ここ…は…?私…それに、何も見えない…」
「そうか…見た目のリペアは完全だったのだがな。…ここはディセプティコンの基地だ」
「ディセプティコン…?」
「ああ。それから、落ち着いて聞け。なまえ。お前の眼は壊れて、もはや何も映すことができない」
「…こ、壊れ…て、」
「お前は戦火に巻き込まれた。オートボットとディセプティコンのな。そして、オートボットの奴らに壊されているところを俺様が見つけた。すまない…一足遅かったな」
「オートボット…」


オートボットとディセプティコン。何やら頭が靄がかかっていて、何もわからない。一体、それは何だっただろうか。


「メガトロナス…オートボットとディセプティコンって一体…それに戦火って…、わ、私何も分からない…」
「ずいぶんひどい損傷を受けていたからな。記憶回路も一部壊れてしまったのかもしれん。…大丈夫だ、俺様が教えてやる」
「ごめんなさい、メガトロナス…」
「気にするな。…とにかく今はゆっくり眠れ。教えるのはそれからでも遅くない」


優しいその声に安堵して、なまえはこくりと頷いた。


「―おやすみ、なまえ」



眠りに就こうとするなまえの真っ暗な視界の片隅に、優しげな青い光が見えた気がした。



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